メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
小話:屈折の庭
ふっと思いついた奴。
扱いとしては21g番外、になるんだけど
メンバー誰も出てないからただの「小話」扱いで。
扱いとしては21g番外、になるんだけど
メンバー誰も出てないからただの「小話」扱いで。
一番近いCDショップには、いつ行ってもその写真がある。
よく耳にする名前の中に並んだ、一つだけ場違いな名前。
似てるなんて思いたくも無い、赤い唇で笑うボーカルと、顔を暗い色で塗りたくったギタリストが映った写真と、数行の賛美。
それが、いつも目触りで堪らない。
どうしてこのバンドが並んでいるのか、それも理解出来ない。
……知名度なんて、殆ど無いのに。
「何かお探しですかぁ?」
そんなことを考えながらラックを眺めていたら、背中から若干間延びした声が掛かる。
振り返れば、店の制服を着た男が立っていた。
やたらと背の高い男は僕の肩越しにラックを見、目を細めた。
「この人達、青森出身なんですってね」
嬉しそうに笑う、その顔に息が詰まる。
けれども茶髪の店員は、持っていたCDをラックに陳列しながら、何てことないみたいに言葉を続ける。
「最近イベントなんかにも出ててー」
「……有名、なんですか」
「あー、そこらは結構なんとも言い難いですが」
そんな訳無い、と思って投げた言葉は、否定も肯定もされなかった。
曖昧に笑って、「失礼します」と骨張った指がラックに伸びる。屈んだ拍子に見えた、『津島』の名札。
彼の手が掴んだのは、そのバンドのCDだった。黒に、暗い赤で書かれたバンド名。
「聞いてみます? 試聴機掛けますよー」
「っ、結構、です……!」
多分、何を思った訳じゃない。CDショップの店員としては、何の不思議も無い。
けど、それは、それをするのは、酷く嫌だった。
だって、
『ねぇちゃんいがい、いらない』
奇妙に歪んだ唇が、そう言い放ったのは何年前だったか。未だに消えない、悪夢みたいな残像。
それを、聞く、とか、
「そうですかー。あ、聞きたいのあったら声掛けてくださいねー」
視線を足元に落としてどうにか言った言葉に、店員はあっさりとそう返して来た。
ひゅう、と喉が鳴りそうになって必死に抑える。
顔をあげれないまま、踵を返す。背中に掛かる、「ありがとうございましたー」。
多分、何てことないように笑っている。それが普通だって、頭じゃ分かっている。
けど、
『だから、おまえなんて、いらない。かぞくなんて、いらない。おれは、ねぇちゃんだけ、いればいい』
そう言って細められた黒い目と、何も映さない昏い目。
家を出ても尚好き勝手にやっているそいつ等を、どうして父さんも母さんも心配するのか。
……新しい曲が出る度に、嬉しそうに目を細めるのか。
それがどうしても分からないし、分かりたくも無い。認めたくもない。
あんな出来損ないと、血が繋がってるなんて。
本屋にも、CDショップにも、徐々に並ぶようになった赤い唇。
……あの唇が、どれだけ欠陥品なのか、世界は知らないんだろう。だから、忘れる訳にはいかない。
「……に」
足早に駐輪場に向かいながら、零れたのは何時も思っている言葉。
「しねば、いいのにっ……」
一つにも満たない欠落品なんて、本当に、死んでしまえばいいのに。
「失礼しまーす」
「おー、津島お疲れ」
「お疲れ様です。あ、来ましたよ『山本君』」
在庫を取りに入ったバックヤードでを振れば、店長は「見てた」と苦く笑った。顎で示されたのは、監視カメラの映像。
ウチの店が、そのバンドのCDを置き始めたのは一年半前。イベントやら何やらで名前を良く聞くようになったのと、それからメンバーの大半が地元中心というのが理由だが、思ったよ
りは売れている。
それと同時に――少年が一人、ヴィジュアル系のラックの前で佇むようになった。
何を買う訳でもなく、たたずっとラックを睨んでいる彼は、当然スタッフの中でも話題になった。
正確な年は分からないが、制服を着ているから学生。胸に名札が縫い付けられているから、中学生ではないかというのがスタッフの認識だ。
「お前、良く声掛けたよなー」
「新譜、丁度ヴィジュアル系でしたからね。ついでにちょろっと」
「……偶にお前のその度胸に感心するわ」
「マジっすか。もっと褒めて良いっすよ」
「調子に乗るな……最初は万引きするかと思ってたけど、ただ見てるだけなんだもんなぁ」
しみじみ、店長が呟く。
黒い髪も私服も、失礼だけどヴィジュアル系に興味があるとは思えない。
そんな子供がじっと棚を並んでいれば、話題にも上ろうというものだ。
在庫から補充用の商品を探しながら、ぼんやりそんなことを考える。
……でもあの顔、どっかで見たことあるんだよなぁ。
合間に浮かんだそんなのは、投げられた声に掻き消える。
「つーか、何か物凄い勢いで店出て行ったけど」
「試聴しますか、つったら逃げました」
「……言ったのか」
「言いましたよ。あんな顔して見てるなら、いっそ聞いてみりゃいいって思って」
「来なくなったらどうすんだよ」
「元から何も買ってないじゃないですか」
「……お前、偶に物凄くシビアだよな」
「もっと褒めて良いですよ」
「褒めてねぇよ」
苦笑交じりの店長の声に、思わず喉が震えた。
特に何を思った訳じゃない。
ただ、いつも同じ場所で立ち止まって。
いつも同じ角度で眺めているから――多分、目当てはあのバンドだと思っただけで。
「でもアレ聞いたことねぇんじゃないですかねー。めっちゃキョドってた」
一年半も睨み続けるくらいなら、一度聞いてみればいいのに。
そんなことを思いながら、在庫の中から補充分を探す。
その途中で指に当たった、見覚えのあるパッケージ。暗い赤と黒のロゴの、凝った装丁。
……唯さん、今回もいいの作ったよなぁ。
「まぁ、あんまり聞く機会ないだろ。ヴィジュアル系とか」
「そうですか? 最近雑誌と連動して動画配信してるサイト多いし、大分知名度上がったと思いますけど」
……まぁ、そのサイトは俺もバンギャさんから教えてもらったんだけど。
「津島ってそういうの詳しいよなぁ。そういう所で聞いたのか?」
「そんな所です。良い音はジャンル関係ないですし」
何処か関心した様に呟く店長に、投げた回答は不明瞭極まりない。
それでも納得してくれたようで、太い指がキーボードを叩き始める。
目当ての物を抜き出して、一呼吸。思い出すのは、蝉の声に被さる轟音。
――すぐ上の兄が連れてきた友人達の音は、中学生だった俺には衝撃的だった。
「聞いてみればいいのになぁ、『山本君』」
ギターもベースも、俺が聞いた時よりもずっと上手くなった。
けど、その根っこにあるのは変わらない――その上を走る、歌声は。
「あ、店長新譜の発注お願いしますね。来月出すそうなんで」
「おー。予約分は別で、二枚くらいか?」
「まぁ、ホントに欲しい人は予約しますからね」
じゃあ、と会釈をして、売り場に戻る。
流行のアイドルと、映画と、洋楽。そんな物が混ざって出来た混沌。
先程売れたアイドルのCDを足して、振り返った先には殆ど俺が担当しているラック。
名の知れたメジャーアーティストの中に、一つだけインディーズバンドが混じっている。
向かって右、周りより高い位置にある、赤と黒。
……この店が無かったら多分、ドラムを叩くのを辞めていたと言ったのは、正月に返ってきた一つ上の兄。
兄弟間の呼び名で、ステージに立つ、俺の尊敬するドラマー。
「……聞けばいいのに」
――世界が変わるくらいの音を、歌を。
いつもそこに立つ誰かに向かって、小さく、本当に小さく落したのは、紛れもない俺の本音。
<屈折の庭>
++++++++++++++++++++
山本さん宅の末っ子と津島さん宅の末っ子。
地元ってことは身内のニアミスもあるよねぇ、と。
個人的にAREAバンドって界隈覗いてたら良く名前聞くけど
普通の人と話したら「誰ソレ」ってなるよね、と。
というか津島さん宅の末っ子が書いてる内にブラコンでギャ男になったんだけどどうするべきか。
多分仙台と東京なら遠征するよコイツ……!
よく耳にする名前の中に並んだ、一つだけ場違いな名前。
似てるなんて思いたくも無い、赤い唇で笑うボーカルと、顔を暗い色で塗りたくったギタリストが映った写真と、数行の賛美。
それが、いつも目触りで堪らない。
どうしてこのバンドが並んでいるのか、それも理解出来ない。
……知名度なんて、殆ど無いのに。
「何かお探しですかぁ?」
そんなことを考えながらラックを眺めていたら、背中から若干間延びした声が掛かる。
振り返れば、店の制服を着た男が立っていた。
やたらと背の高い男は僕の肩越しにラックを見、目を細めた。
「この人達、青森出身なんですってね」
嬉しそうに笑う、その顔に息が詰まる。
けれども茶髪の店員は、持っていたCDをラックに陳列しながら、何てことないみたいに言葉を続ける。
「最近イベントなんかにも出ててー」
「……有名、なんですか」
「あー、そこらは結構なんとも言い難いですが」
そんな訳無い、と思って投げた言葉は、否定も肯定もされなかった。
曖昧に笑って、「失礼します」と骨張った指がラックに伸びる。屈んだ拍子に見えた、『津島』の名札。
彼の手が掴んだのは、そのバンドのCDだった。黒に、暗い赤で書かれたバンド名。
「聞いてみます? 試聴機掛けますよー」
「っ、結構、です……!」
多分、何を思った訳じゃない。CDショップの店員としては、何の不思議も無い。
けど、それは、それをするのは、酷く嫌だった。
だって、
『ねぇちゃんいがい、いらない』
奇妙に歪んだ唇が、そう言い放ったのは何年前だったか。未だに消えない、悪夢みたいな残像。
それを、聞く、とか、
「そうですかー。あ、聞きたいのあったら声掛けてくださいねー」
視線を足元に落としてどうにか言った言葉に、店員はあっさりとそう返して来た。
ひゅう、と喉が鳴りそうになって必死に抑える。
顔をあげれないまま、踵を返す。背中に掛かる、「ありがとうございましたー」。
多分、何てことないように笑っている。それが普通だって、頭じゃ分かっている。
けど、
『だから、おまえなんて、いらない。かぞくなんて、いらない。おれは、ねぇちゃんだけ、いればいい』
そう言って細められた黒い目と、何も映さない昏い目。
家を出ても尚好き勝手にやっているそいつ等を、どうして父さんも母さんも心配するのか。
……新しい曲が出る度に、嬉しそうに目を細めるのか。
それがどうしても分からないし、分かりたくも無い。認めたくもない。
あんな出来損ないと、血が繋がってるなんて。
本屋にも、CDショップにも、徐々に並ぶようになった赤い唇。
……あの唇が、どれだけ欠陥品なのか、世界は知らないんだろう。だから、忘れる訳にはいかない。
「……に」
足早に駐輪場に向かいながら、零れたのは何時も思っている言葉。
「しねば、いいのにっ……」
一つにも満たない欠落品なんて、本当に、死んでしまえばいいのに。
「失礼しまーす」
「おー、津島お疲れ」
「お疲れ様です。あ、来ましたよ『山本君』」
在庫を取りに入ったバックヤードでを振れば、店長は「見てた」と苦く笑った。顎で示されたのは、監視カメラの映像。
ウチの店が、そのバンドのCDを置き始めたのは一年半前。イベントやら何やらで名前を良く聞くようになったのと、それからメンバーの大半が地元中心というのが理由だが、思ったよ
りは売れている。
それと同時に――少年が一人、ヴィジュアル系のラックの前で佇むようになった。
何を買う訳でもなく、たたずっとラックを睨んでいる彼は、当然スタッフの中でも話題になった。
正確な年は分からないが、制服を着ているから学生。胸に名札が縫い付けられているから、中学生ではないかというのがスタッフの認識だ。
「お前、良く声掛けたよなー」
「新譜、丁度ヴィジュアル系でしたからね。ついでにちょろっと」
「……偶にお前のその度胸に感心するわ」
「マジっすか。もっと褒めて良いっすよ」
「調子に乗るな……最初は万引きするかと思ってたけど、ただ見てるだけなんだもんなぁ」
しみじみ、店長が呟く。
黒い髪も私服も、失礼だけどヴィジュアル系に興味があるとは思えない。
そんな子供がじっと棚を並んでいれば、話題にも上ろうというものだ。
在庫から補充用の商品を探しながら、ぼんやりそんなことを考える。
……でもあの顔、どっかで見たことあるんだよなぁ。
合間に浮かんだそんなのは、投げられた声に掻き消える。
「つーか、何か物凄い勢いで店出て行ったけど」
「試聴しますか、つったら逃げました」
「……言ったのか」
「言いましたよ。あんな顔して見てるなら、いっそ聞いてみりゃいいって思って」
「来なくなったらどうすんだよ」
「元から何も買ってないじゃないですか」
「……お前、偶に物凄くシビアだよな」
「もっと褒めて良いですよ」
「褒めてねぇよ」
苦笑交じりの店長の声に、思わず喉が震えた。
特に何を思った訳じゃない。
ただ、いつも同じ場所で立ち止まって。
いつも同じ角度で眺めているから――多分、目当てはあのバンドだと思っただけで。
「でもアレ聞いたことねぇんじゃないですかねー。めっちゃキョドってた」
一年半も睨み続けるくらいなら、一度聞いてみればいいのに。
そんなことを思いながら、在庫の中から補充分を探す。
その途中で指に当たった、見覚えのあるパッケージ。暗い赤と黒のロゴの、凝った装丁。
……唯さん、今回もいいの作ったよなぁ。
「まぁ、あんまり聞く機会ないだろ。ヴィジュアル系とか」
「そうですか? 最近雑誌と連動して動画配信してるサイト多いし、大分知名度上がったと思いますけど」
……まぁ、そのサイトは俺もバンギャさんから教えてもらったんだけど。
「津島ってそういうの詳しいよなぁ。そういう所で聞いたのか?」
「そんな所です。良い音はジャンル関係ないですし」
何処か関心した様に呟く店長に、投げた回答は不明瞭極まりない。
それでも納得してくれたようで、太い指がキーボードを叩き始める。
目当ての物を抜き出して、一呼吸。思い出すのは、蝉の声に被さる轟音。
――すぐ上の兄が連れてきた友人達の音は、中学生だった俺には衝撃的だった。
「聞いてみればいいのになぁ、『山本君』」
ギターもベースも、俺が聞いた時よりもずっと上手くなった。
けど、その根っこにあるのは変わらない――その上を走る、歌声は。
「あ、店長新譜の発注お願いしますね。来月出すそうなんで」
「おー。予約分は別で、二枚くらいか?」
「まぁ、ホントに欲しい人は予約しますからね」
じゃあ、と会釈をして、売り場に戻る。
流行のアイドルと、映画と、洋楽。そんな物が混ざって出来た混沌。
先程売れたアイドルのCDを足して、振り返った先には殆ど俺が担当しているラック。
名の知れたメジャーアーティストの中に、一つだけインディーズバンドが混じっている。
向かって右、周りより高い位置にある、赤と黒。
……この店が無かったら多分、ドラムを叩くのを辞めていたと言ったのは、正月に返ってきた一つ上の兄。
兄弟間の呼び名で、ステージに立つ、俺の尊敬するドラマー。
「……聞けばいいのに」
――世界が変わるくらいの音を、歌を。
いつもそこに立つ誰かに向かって、小さく、本当に小さく落したのは、紛れもない俺の本音。
<屈折の庭>
++++++++++++++++++++
山本さん宅の末っ子と津島さん宅の末っ子。
地元ってことは身内のニアミスもあるよねぇ、と。
個人的にAREAバンドって界隈覗いてたら良く名前聞くけど
普通の人と話したら「誰ソレ」ってなるよね、と。
というか津島さん宅の末っ子が書いてる内にブラコンでギャ男になったんだけどどうするべきか。
多分仙台と東京なら遠征するよコイツ……!
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