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21g小話: 「ぎこちなく、両手を折れんばかりに握る

澪と双生へのお題は『「ぎこちなく、両手を折れんばかりに握る」キーワードは「記念日」』です。

――と、http://shindanmaker.com/38363で出たので。
息抜きに診断メイカーは危険。(作業妨害的な意味で)


 短い通路が、やたらと長く見えた。待ちこがれた舞台には、自分を知る人間は一人もいない。
 構わない、望む所だと思うのに――心臓が落ち着かない。
「澪」
「……ねぇちゃん」
「前のバンド、もうちょっとか」
 四角から溢れる光を見ていた目が、澪を見る。眇められる、色の変わった瞳。
「澪」
 小さく震える手が、澪の両手を握る。ぎこちなく、それでも折れんばかりに。
 すぅ、と胸郭が膨らんで、凹む。まるで祈るみたいに、押し当てられたのは額。
「大丈夫」
 昔から何度も聞いた言葉は、今は震えていた。
 気付いていないのか、それとも悟られまいとしているのか、双生はもう一度同じ様に呟く。
「最初はE。四拍の前奏の、クラッシュの後」
「いー」
「……その音」
 どちらともなく掌に力が籠もる。震えるそれを押さえる様に、澪も姉と同じ様に額を押し付ける。
「大丈夫――いつも通り、アンタは歌えばいい」
「……うん」
「御披露目記念日だとか、そんなの気にしないで」
「……うん」
「いつも通り、今まで通り、歌えばいい」
「うん」
 大丈夫、と澪も呟く。
「ねぇちゃんと、唯と、みっちゃんがいる……大丈夫、何も変わんない」
 ぐり、と一層強く額を押し付ける。空気を吸い込んで、口元に笑みを浮かべて。
 吐き出す息に、音を乗せる。
「俺は――歌える」
「……うん」
 増幅された音の合間に、それは確かに、互いの鼓膜に届いた。どちらともなく目を開く。
 四角から溢れていた音が消えていく。もうすぐなのだと思うと、また掌に力が籠もった。
 一度だけ、きつくきつく握り締めて。
 ――そうしてどちらともなく離れいった体温。
 近付いてくる足音に、二人は揃って振り返る。緊張で顔を彩った友人達が、彼等を見て小さく笑った。
「……いよいよ、だな」
「大丈夫、今までと何も変わらないし……正直学祭のが人多かった」
「ふは、確かに」
 軽口を叩いても、顔は幾分強ばったままだった。それでも、ステージから目は逸らさない。
 やがて、演奏を終えた前のバンドが通路をやってくる。彼等に会釈をして――睨む、短い通路の先。
「……行こう」
 唯の声に、蜜と双生が歩き出す。その背中を見、澪は手元に視線を落とす。
 まだ、感覚の消えない手。
 それを握り締めて、彼も一歩を踏み出した。

++++++++++++++++++
「21g」初ライブの少し前
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