メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
21g小話:「おはよ。」
http://shindanmaker.com/122300で出たお題。
下手加入前の四弦と六弦。
四弦と六弦は学生、歌唄いはバイトの時期。
料理スキル的には
上手≧下手>太鼓>>四弦>>歌唄い
太鼓が食べに来るから、実質大学時代の上手は同級生三人の食生活担ってる状態だったかと。
現状はリズム隊+歌唄いが上手と下手に集っているんじゃないかと思った。
下手加入前の四弦と六弦。
四弦と六弦は学生、歌唄いはバイトの時期。
料理スキル的には
上手≧下手>太鼓>>四弦>>歌唄い
太鼓が食べに来るから、実質大学時代の上手は同級生三人の食生活担ってる状態だったかと。
現状はリズム隊+歌唄いが上手と下手に集っているんじゃないかと思った。
目が覚めて、コーヒー以外の匂いがするのは珍しい。
まだ開き切らない目の向こうからは、何かが焼ける音と。
「おはよ」
「……はよ」
擦りながら開けた視界。カウンターで区切られた向こう側で、作業をしていた幼馴染が振り返る。
欠伸交じりにそちらに向かえば、皿の上にはきつね色。
「……フレンチトーストとか珍し」
「食パン賞味期限切れてたし、卵もそろそろ危なかったから」
「……まぁ、いいけど。メープルシロップあったっけ」
「ホットケーキじゃないんですけど」
言いながら、器用にフライパンの上のそれを引っ繰り返す双生。
食パンを四分割にするのは、姉貴がコイツに教えた癖。
じゅう、という音と共に広がる匂いに、腹の虫が小さく鳴いた。
「なー、サラダ作ったら食う?」
「え、何、明日雨降らす気」
「違ェし。冷蔵庫一掃セール的な?」
「あぁ、そのレタス買ってきたの唯だったんだ」
「そ、俺……つーかお前、今日一限だったっけ?」
「二限からだけど、目覚めちゃって。作っておいたら澪も食べるでしょ」
「あぁ」
それを聞いて、皿の上の量に納得が落ちた。
昨日は確か夜遅くまでバイトが入っていて、だからもう一人の幼馴染は昼まで起きてこないだろう。
「なんか昼飯になりそうだけど」
「澪に作らせるとカップラーメンになるもの」
ラーメン自体が苦手な双生は、そう言って眉根を寄せた。
もっとも、それはラーメンに限ったことじゃない。
料理はするが、それは俺と澪が出来ないから。自分で食うためには、滅多にしない。
「作る過程で、匂いでお腹一杯になる」というのがどっかの馬鹿の言い分。
実際テーブルに座らせても、足りるのかって疑いたくなる量しか食べやしない。
……頻繁に倒れてる辺り、到底足りてはいないんだけど。
「双生、これガスかけといて」
「んー」
水を入れた薬缶が鳴り始める間に、常備してあるタマネギを半玉刻む。
レタスは手で千切って、ザルの中へ。
その間にも双生は器用にパンを引っ繰り返す。
「時間平気?」
「平気。いつもより早ぇし、急行乗るし」
「急行人多くない? 私まだ慣れないんだけど」
「ラッシュずれてるしなぁ。急行だと三十分かそこらで学校付くし」
コイツの学校とは逆方向の専門学校は、各駅停車では少し遠い。それでも、地元に比べれば十分に通学範囲内だけど。
そんなことを考えていたら、お湯が沸く音が聞こえ始めた。
「あー、そういやポン酢切れそう」
「気付いたなら買ってきてよ」
「帰る頃には忘れてんだよ」
「……じゃあ、今日買ってくる」
ガスを消して、双生は皿を運ぶ。こぽりと落ちきるコーヒー。
沸騰したお湯をザルの中にかければ、透き通る玉葱と小さくなるレタス。
深めの皿にそれを取り分けた所で、マグカップを両手に持った双生が戻ってきた。
黒い目が、ぱちくりと瞬く。
「最近はまってんの、お湯掛けると甘くなるし」
「お湯かけただけでも大分嵩減るんだね」
「おー、なんか短時間だから栄養減らないってクラスの子が……あ、ポン酢持ってきて」
「了解」
サラダと小皿が一つずつと、パンの乗った大皿。コーヒーの入ったマグカップ。
骨張った指が持ってきた、ポン酢とメープルシロップ。
「なんだかんだ言って持ってきてんじゃん」
「掛けて後悔するの私じゃないから」
「朝の甘いのは脳にいいんだって。瑠璃が言ってた……あ、サラダ冷めない内に食えよ」
「ポン酢?」
「そー、色々試したけどポン酢が一番美味ェの」
「あぁ、じゃあいただきます」
「いただききます」
手を合わせるのは、長年の癖。
小皿にフレンチトーストを取る間に、綺麗な箸使いで幼馴染はサラダを口に運ぶ。
ゆっくり時間を掛けて噛んで、ごくりと動く喉。
「……ホントだ、美味しい」
「これ冷めてもいいんだけど、個人的には温かいうちがいい」
「へぇ」
たっぷりメープルシロップを絡めたフレンチトーストは予想通りの味。やっぱり蜂蜜よりはメープルシロップだな。
しょっぱいのも好きだけど、やっぱり甘いものは別格だ。
「あと足りないものとかある?」
「食材」
「いや知ってるから」
「アイス食いてぇな。高いの。お前の金で」
「自分で買えよ」
喉で笑って、ゆっくりとサラダを口に運ぶ双生。作ったフレンチトーストには、今だ手は伸びない。
一つを皿の上に乗せれば、驚いたような目が俺を見上げる。怪訝をぶつけられるより先に、言葉を落とす。
「試してみろって、フレンチオンザメープル」
「……格好よく言った所悪いんだけど、それじゃメープルシロップの上にフレンチトーストだから」
「……あれ?」
「メープルシロップ」
「おう」
ちょっとだけメープルシロップの掛かった狐色が、口元に運ばれる。
一口をゆっくり咀嚼して、コーヒーで押し込んで。
……あまり食べると吐くと言ってたの、いつのことだっけ。
昼は大概みっちゃんが一緒だけど、朝と晩は合わないこともある。
澪が言っても聞かないことを、俺等が言ったってどうしようもない、けど。
「俺今度あれ食いたい、エビチリ」
「……いっそ買って来い」
「作れんじゃんー。エビフライでも可」
「えー……なんでそうまた面倒なのばかり」
「じゃあオムライスでいい。卵ふわふわな奴」
「みっちゃんに頼んでよ。私オムレツ上手くないもん」
「精進しろよ」
「お前がな」
俺の、人の倍以上時間を掛けて、サラダは空になる。
箸先が少しだけ逡巡して、それから二個目のフレンチトーストを皿に運んだ。
……最低限、食ってるならいい。
そう思ってしまうのは、一番酷かった時期を知っているからか。
「つーか今日オムライス食いたい」
「……まぁ、いいけど。どうせならみっちゃんも誘おうか」
「おっしゃ! ふわふわ!」
思わず手を叩いた俺に苦笑しながら、マグカップ片手に立ち上がる幼馴染。
俺のを覗き込んでまだあるのを確かめてから、台所に向かう。
「なー、双生」
「んー?」
「……明日もなんか、美味いの食いたい」
振り返った目が、一度だけ瞬きをする。
それから微かに細められる、黒。
柔らかに、穏やかに、笑う顔。
「唯が朝起きれたら、いいけど」
「舐めんなオメー、俺割と優等生だぞ」
「明日土曜日だけど」
「……あれ?」
思わず漏れた声に、幼馴染は喉で笑う。
……うわ、ホントだ今日金曜日だ。
顔を覆う俺を余所に、なにもなかったみたいにサーバーからコーヒーを注いで、コーヒーメーカーに戻して。
「じゃあ、明日は皆でご飯食べようか」
「……おー」
その提案は魅力的で、だから今の失敗を、明日の期待で塗りつぶすことにした。
<「おはよ。」>
まだ開き切らない目の向こうからは、何かが焼ける音と。
「おはよ」
「……はよ」
擦りながら開けた視界。カウンターで区切られた向こう側で、作業をしていた幼馴染が振り返る。
欠伸交じりにそちらに向かえば、皿の上にはきつね色。
「……フレンチトーストとか珍し」
「食パン賞味期限切れてたし、卵もそろそろ危なかったから」
「……まぁ、いいけど。メープルシロップあったっけ」
「ホットケーキじゃないんですけど」
言いながら、器用にフライパンの上のそれを引っ繰り返す双生。
食パンを四分割にするのは、姉貴がコイツに教えた癖。
じゅう、という音と共に広がる匂いに、腹の虫が小さく鳴いた。
「なー、サラダ作ったら食う?」
「え、何、明日雨降らす気」
「違ェし。冷蔵庫一掃セール的な?」
「あぁ、そのレタス買ってきたの唯だったんだ」
「そ、俺……つーかお前、今日一限だったっけ?」
「二限からだけど、目覚めちゃって。作っておいたら澪も食べるでしょ」
「あぁ」
それを聞いて、皿の上の量に納得が落ちた。
昨日は確か夜遅くまでバイトが入っていて、だからもう一人の幼馴染は昼まで起きてこないだろう。
「なんか昼飯になりそうだけど」
「澪に作らせるとカップラーメンになるもの」
ラーメン自体が苦手な双生は、そう言って眉根を寄せた。
もっとも、それはラーメンに限ったことじゃない。
料理はするが、それは俺と澪が出来ないから。自分で食うためには、滅多にしない。
「作る過程で、匂いでお腹一杯になる」というのがどっかの馬鹿の言い分。
実際テーブルに座らせても、足りるのかって疑いたくなる量しか食べやしない。
……頻繁に倒れてる辺り、到底足りてはいないんだけど。
「双生、これガスかけといて」
「んー」
水を入れた薬缶が鳴り始める間に、常備してあるタマネギを半玉刻む。
レタスは手で千切って、ザルの中へ。
その間にも双生は器用にパンを引っ繰り返す。
「時間平気?」
「平気。いつもより早ぇし、急行乗るし」
「急行人多くない? 私まだ慣れないんだけど」
「ラッシュずれてるしなぁ。急行だと三十分かそこらで学校付くし」
コイツの学校とは逆方向の専門学校は、各駅停車では少し遠い。それでも、地元に比べれば十分に通学範囲内だけど。
そんなことを考えていたら、お湯が沸く音が聞こえ始めた。
「あー、そういやポン酢切れそう」
「気付いたなら買ってきてよ」
「帰る頃には忘れてんだよ」
「……じゃあ、今日買ってくる」
ガスを消して、双生は皿を運ぶ。こぽりと落ちきるコーヒー。
沸騰したお湯をザルの中にかければ、透き通る玉葱と小さくなるレタス。
深めの皿にそれを取り分けた所で、マグカップを両手に持った双生が戻ってきた。
黒い目が、ぱちくりと瞬く。
「最近はまってんの、お湯掛けると甘くなるし」
「お湯かけただけでも大分嵩減るんだね」
「おー、なんか短時間だから栄養減らないってクラスの子が……あ、ポン酢持ってきて」
「了解」
サラダと小皿が一つずつと、パンの乗った大皿。コーヒーの入ったマグカップ。
骨張った指が持ってきた、ポン酢とメープルシロップ。
「なんだかんだ言って持ってきてんじゃん」
「掛けて後悔するの私じゃないから」
「朝の甘いのは脳にいいんだって。瑠璃が言ってた……あ、サラダ冷めない内に食えよ」
「ポン酢?」
「そー、色々試したけどポン酢が一番美味ェの」
「あぁ、じゃあいただきます」
「いただききます」
手を合わせるのは、長年の癖。
小皿にフレンチトーストを取る間に、綺麗な箸使いで幼馴染はサラダを口に運ぶ。
ゆっくり時間を掛けて噛んで、ごくりと動く喉。
「……ホントだ、美味しい」
「これ冷めてもいいんだけど、個人的には温かいうちがいい」
「へぇ」
たっぷりメープルシロップを絡めたフレンチトーストは予想通りの味。やっぱり蜂蜜よりはメープルシロップだな。
しょっぱいのも好きだけど、やっぱり甘いものは別格だ。
「あと足りないものとかある?」
「食材」
「いや知ってるから」
「アイス食いてぇな。高いの。お前の金で」
「自分で買えよ」
喉で笑って、ゆっくりとサラダを口に運ぶ双生。作ったフレンチトーストには、今だ手は伸びない。
一つを皿の上に乗せれば、驚いたような目が俺を見上げる。怪訝をぶつけられるより先に、言葉を落とす。
「試してみろって、フレンチオンザメープル」
「……格好よく言った所悪いんだけど、それじゃメープルシロップの上にフレンチトーストだから」
「……あれ?」
「メープルシロップ」
「おう」
ちょっとだけメープルシロップの掛かった狐色が、口元に運ばれる。
一口をゆっくり咀嚼して、コーヒーで押し込んで。
……あまり食べると吐くと言ってたの、いつのことだっけ。
昼は大概みっちゃんが一緒だけど、朝と晩は合わないこともある。
澪が言っても聞かないことを、俺等が言ったってどうしようもない、けど。
「俺今度あれ食いたい、エビチリ」
「……いっそ買って来い」
「作れんじゃんー。エビフライでも可」
「えー……なんでそうまた面倒なのばかり」
「じゃあオムライスでいい。卵ふわふわな奴」
「みっちゃんに頼んでよ。私オムレツ上手くないもん」
「精進しろよ」
「お前がな」
俺の、人の倍以上時間を掛けて、サラダは空になる。
箸先が少しだけ逡巡して、それから二個目のフレンチトーストを皿に運んだ。
……最低限、食ってるならいい。
そう思ってしまうのは、一番酷かった時期を知っているからか。
「つーか今日オムライス食いたい」
「……まぁ、いいけど。どうせならみっちゃんも誘おうか」
「おっしゃ! ふわふわ!」
思わず手を叩いた俺に苦笑しながら、マグカップ片手に立ち上がる幼馴染。
俺のを覗き込んでまだあるのを確かめてから、台所に向かう。
「なー、双生」
「んー?」
「……明日もなんか、美味いの食いたい」
振り返った目が、一度だけ瞬きをする。
それから微かに細められる、黒。
柔らかに、穏やかに、笑う顔。
「唯が朝起きれたら、いいけど」
「舐めんなオメー、俺割と優等生だぞ」
「明日土曜日だけど」
「……あれ?」
思わず漏れた声に、幼馴染は喉で笑う。
……うわ、ホントだ今日金曜日だ。
顔を覆う俺を余所に、なにもなかったみたいにサーバーからコーヒーを注いで、コーヒーメーカーに戻して。
「じゃあ、明日は皆でご飯食べようか」
「……おー」
その提案は魅力的で、だから今の失敗を、明日の期待で塗りつぶすことにした。
<「おはよ。」>
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