メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
21g小話:白空
上手と下手の小話。
下手が加入して少し後の眠たい二人。
下手が加入して少し後の眠たい二人。
空は僅かに白み始めて、でもまだ街灯の方が明るい。
そんな中駅に向かう人の流れは、多分俺等と同じ種類。そんなことを考えながら欠伸を噛み殺す。
スタジオ終わり、相方と飯食って終電を逃した。そんな、改めて思い返せば滑稽な話。
改札を抜けて上がったたホームに人影は疎らで、普段が嘘のようだった。ぼんやりそれを見上げていたら、視界の端で黒が動く。
「……ソーセイ?」
ふらふら、覚束ない足取りで踏み越えた境界線。
ホームぎりぎりに立ったのは、細い、相方の背中。
「電車来るで」
「うん」
何とはなしに投げた言葉に、どこかふわふわとした返事だけが返ってくる。視線は砂利がひかれた線路に向いたまま、振り返ることはない。
「弑さん」
「ん?」
「清水の舞台もこんなカンジなんですかね」
「もっと高いやろ。行かんかったんか?」
「……よく、覚えてないです」
ふわふわとした、静まり返っていなければ聞こえない声。
俺が席を立った際に飲み込んだ白い錠剤の中味は知らんが、大体の予想はつく。
「でも、きっとこうなんでしょう」
「ほうか」
「……弑さん」
「ん?」
「こんなに、近いんですね」
意味を問う前に、アナウンスに消えた声。けれども子供はそこから動かない。
僅かな距離を詰める。
腕を伸ばして引き寄せる。
コンクリートに引かれた境界の内側に戻ってくる、黒色。
色んな音を擦り潰しながら、黄色い電車がやってくる。その音を背にようやく振り返った目は何処か虚ろ。
「弑さん」
ふわりと綻んだ笑顔は、やはり普段見ない形だった。
「爪先の、すぐ向こうでした」
「……ほうか」
腕を引いて乗り込んだ電車、その入り口に近い場所に腰を下ろす。溜息と一緒に瞼が落ちそうになるのを、どうにか堪えた。
薄目で伺った相方はもっと眠そうだった。
「寝たら?」
「寝過ごすと、思います」
「起こしたるよ」
「弑さんが、降りた後……の、話です」
くすくす、控えめな笑い声。記憶にないそれに、これは夢かと思うけど。
「学校やっけ」
「まぁ」
「やっぱり寝とき」
頭を撫でれば、細められる目。見覚えがあるそれに目を眇める。
動き始めた電車の窓に、景色がゆっくり流れていく。
今日と昨日の狭間で見せたあの顔は、本当に、夢であったら良かったのにと。
左肩に重みと寝息を感じながら、そんなことを思った。
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