メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
21g小話:嘘です、嘘です。
一日一つお題きめったー 【http://shindanmaker.com/134159】にて弑と澪に
お題『それでもまだ、恋しいと泣くんだ』or『嘘です、嘘です。 』【大食い】
が出ました。
丑三つ時に一人で滾った。
続きに似た者同士二人の話。
お題『それでもまだ、恋しいと泣くんだ』or『嘘です、嘘です。 』【大食い】
が出ました。
丑三つ時に一人で滾った。
続きに似た者同士二人の話。
微妙に冷房の効いた車内。日中の日差しは眩しくて、だから駅に入ると余計に暗く思える。
最寄り駅の二つ隣。開いたドアから乗ってきた人は、黒いスーツを着ていた。
服だけ見たら普通の社会人に思えるけど、髪の色は不釣合いな金。
ちょっとしたホストか何かみたいなその人を、俺は知っている。
「……しー、さん?」
零れた呟きに、驚いたように振り替える。
同じ色でも、ライダースやカットソーとは印象の違う格好。
何より、窮屈そうに見えるネクタイの色は、黒くて。
「……偶然やなぁ、どっか行くん」
「ん、都内。しーさんは……結婚式?」
スーツを着るような用事なんか二つしか思いつかなくて、だからめでたい方を口にした、けど。
それを聞いたしーさんの顔に苦笑が浮かぶ。
俺の隣に立って、いつもみたいに頭を撫でて。
けど、その笑顔だけが、いつもと違う。
ふわりと香った甘い匂い。
――反対側の手に、白い花束が握られているのに気付いたのはその時だった。
そうして思い出すのは、結婚式は白いネクタイだってこと。
「……ちょっと、知り合いに会いに」
「……遠いの?」
「駅二つ分くらい? 流石にこの炎天下をこの格好では歩けへんわな」
がたん、と大きく揺れて電車が動き出す。
扉に軽く寄りかかって、しーさんは窓の外を眺める。
その裾を、掴んでいたのは本当に無意識だった。引っ張られたことに気付いたのか、俺を見下ろすしーさん。
「しーさん、俺も行っていい?」
微かに見開かれた目に、失敗したかと思う。
それでもまた苦笑が浮かんで、わしゃわしゃと頭を撫でる骨張った指。
「用事、あったんと違うん」
「んー、後でもいい」
「そか」
断られなかったってことは、多分着いていっても良いってこと。
ちょっと悩んでそう判断して、かけたままだった音楽プレイヤーを止めた。
がたんごとん、揺れる電車。しーさんの金髪が、それを受けてきらきら光る。
流れていく景色が段々ゆっくりになって、そうしてゆっくりと、暗がりの中へと滑り込む。
とん、と軽い動作で背中が浮いた。
開いたドアに向かうしーさんの背中を追いかける。
煩いくらいの、蝉の声がした。
「西口な」
「うん」
すれ違う人の何人かが、しーさんを振り返る。
確かに黒と金色は目を引く組み合わせで、そうじゃなくてもしーさんは格好良い。
改札を抜けて、踏み出したアスファルト。
濃い影を落とす日差しに目を細める、その間に、しーさんはもう歩き出していた。
よく見れば足元もちゃんとした革靴で、持ってたんだと、ちょっとだけ失礼なことを思った。
煩いくらいの、蝉の声。
少しだけ坂になった道を、まっすぐ歩く黒い背中。
坂の先に見えた和風の門に、あぁ、と目を細めてしまう。
「しーさん、暑くない?」
「暑いな」
「俺、夏嫌い」
「暑いからか」
「……うん」
なんとなく隣は歩けなくて、少し後ろを追いかける。
規則正しいリズムで上がる踵。
ぼんやりと、嫌いなのはそれだけじゃない、と思う。
纏わり付く様な暑さも、強い日差しも、煩いくらいの蝉の声も、全部。
けれども言うのは憚られて、だから、そういうことにしようと思った。
「ネクタイも嫌い、結べない」
「あー、言うとったな」
「だって結んだことないもん」
「そうも言ってられんやろ」
顔は見えないままだけど、声に笑いが含まれたのが分かった。
坂はいつの間にか上りきってしまって、目の前には和風の門。
開かれたそれをくぐれば、ふわりと、線香の匂いがした。
蝉が、鳴いている。
その中を、しーさんは真っ直ぐに歩いていく。
本堂の脇を抜けて、ずらりとお墓が並んだ方へ。
「……しぃ」
さん、と、名前を呼ぶのも躊躇うくらいの静寂と蝉の声。
真っ直ぐに真っ直ぐにお墓の合間を抜けて、辿り着いた一つ。
決して止まらなかった足取りが、一瞬だけ止まった。
振り返る、苦笑に近い、胸がざわざわする笑い方。
「水汲んでくるわ。花、ちょっと預けてええか」
「うん」
「おおきに」
白い花束は、甘い匂いがした。百合独特の、眉を顰めたくなる匂い。
花立ての銀色の筒を持って、しーさんは水場に向かう。
煩いくらいの蝉の声と、強い日差し。
線香の匂いも全部全部、嫌いなものばかり。
――だってここは、誰かの終わりしかない。
ちょっと、と言ったとおり、すぐにしーさんは戻ってきた。
筒をお墓に戻して、俺から花束を受け取って。
骨張った指が、起用にお花を生けていく。
そうしてポケットから取り出したのは線香じゃなくて煙草の箱で、慣れた様子で一本を取り出して。
「澪、ちょお吸ってもええ」
「……うん」
「ん」
ジッポが灯って、消える。明滅する赤。
鼻の奥に残った甘さをかき消す独特の匂いに、無意識の内に溜息が零れた。
一口だけ吸った、まだ長いそれを、しーさんは線香みたいに立てる。
風がないから、真っ直ぐに立ち上る煙。
一つだけ溜息を吐いて、しーさんはまた笑う。
「祥月命日、来れへんかったから」
さっきと同じ、胸のざわめく苦笑。
ついてこなければよかった。
ついてきてよかった。
そんな、全然反対のことを同時に思う。
「しぃ、さん」
「んー?」
平気、とか、知り合い、とかそんな言葉が頭に浮かんだ。
けど聞けなくて、ぱくぱく、口だけが開いて閉じる。
段々視線が足元に落ちて、向こう側でしーさんが笑うのが分かった。
「自分はホンマ、年々ガキになるなぁ」
「……なにそれ、訳わかんない」
「別に気にせんのに、何聞いても」
嘘だ、と思った。
しーさんをあんな顔で笑わせる何かが、なんでもない訳がない。
「そこまでガキじゃないよ」
ねぇしーさん。
掠れた声だったけど、蝉の声に負けずに届いたらしい。
「……俺、着いてきてよかったの」
「あー、まぁ気にせんやろ。ガキ好きやったし」
「だからガキじゃないって。五歳しか違わないじゃない」
「俺小学校入った年に自分等一歳やろ」
「中学校卒業した年にしーさんは成人式だよ」
「十分やろ」
喉で笑いを転がして、しーさんは口元に手を運ぶ。
運んでから煙草が無いのに気付いたのか、軽く竦められる肩。
「……まぁ、別に自分が気にせぇへんかったら構わんよ。辛気臭いやろ」
「別にお寺、嫌いじゃないよ」
「そうか」
「うん……ねぇ、しーさん」
「んー?」
「……だい、じょう、ぶ?」
一瞬だけ、しーさんは面食らったような顔をした。
そうして伸びてきた指は、花の匂いなんてしなかった。
「もう十年も前の話になるから、平気」
嘘だと、思った。
平気なら――そんな、顔で、
「……そっか」
でも、そこに踏み込むのは、躊躇ってしまう。
何も言えなくなった俺の頭を、いつもよりも乱暴にしーさんは撫でる。
「帰ろか、澪」
「いいの」
「んー、まぁ顔見せに来たようなもんやしなぁ」
「待って、俺も拝む」
「拍手打つなよ」
「打たないよ!」
くく、と喉が鳴る。
いつもよりも弱々しい、苦い笑顔。多分、しーさんは平気だって言う。
……けど、十年前の喪失を、そうやって笑うなら。
笑顔で嘘を吐くから、このひとは偶に凄く怖い
そこで思考を止めて、墓前に手を合わせる。
鼻を擽ったのは、やっぱり苦い煙草の煙。
もし、ねぇちゃんが、俺が、唯がみっちゃんが、そうなったら。
――しーさんはやっぱり、そんな顔で笑うのかな。
ふっと浮かんだそれはとてもとても怖い物で、だから必死に意識の底に沈めた。
<嘘です、嘘です。>
(そんなことを思ったなんて、)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
親子で兄弟である種似た者同士の二人。
下手は澪の言う通り、結婚式か葬式かしかスーツを着ないと思った。
多分下手が持っている服の中で、一番ちゃんとした服。
下手は人の死に対して、それなりに経験してきてるけど
親しい人に関しては情を持ちすぎてそれなりに引き摺ると思った。
最寄り駅の二つ隣。開いたドアから乗ってきた人は、黒いスーツを着ていた。
服だけ見たら普通の社会人に思えるけど、髪の色は不釣合いな金。
ちょっとしたホストか何かみたいなその人を、俺は知っている。
「……しー、さん?」
零れた呟きに、驚いたように振り替える。
同じ色でも、ライダースやカットソーとは印象の違う格好。
何より、窮屈そうに見えるネクタイの色は、黒くて。
「……偶然やなぁ、どっか行くん」
「ん、都内。しーさんは……結婚式?」
スーツを着るような用事なんか二つしか思いつかなくて、だからめでたい方を口にした、けど。
それを聞いたしーさんの顔に苦笑が浮かぶ。
俺の隣に立って、いつもみたいに頭を撫でて。
けど、その笑顔だけが、いつもと違う。
ふわりと香った甘い匂い。
――反対側の手に、白い花束が握られているのに気付いたのはその時だった。
そうして思い出すのは、結婚式は白いネクタイだってこと。
「……ちょっと、知り合いに会いに」
「……遠いの?」
「駅二つ分くらい? 流石にこの炎天下をこの格好では歩けへんわな」
がたん、と大きく揺れて電車が動き出す。
扉に軽く寄りかかって、しーさんは窓の外を眺める。
その裾を、掴んでいたのは本当に無意識だった。引っ張られたことに気付いたのか、俺を見下ろすしーさん。
「しーさん、俺も行っていい?」
微かに見開かれた目に、失敗したかと思う。
それでもまた苦笑が浮かんで、わしゃわしゃと頭を撫でる骨張った指。
「用事、あったんと違うん」
「んー、後でもいい」
「そか」
断られなかったってことは、多分着いていっても良いってこと。
ちょっと悩んでそう判断して、かけたままだった音楽プレイヤーを止めた。
がたんごとん、揺れる電車。しーさんの金髪が、それを受けてきらきら光る。
流れていく景色が段々ゆっくりになって、そうしてゆっくりと、暗がりの中へと滑り込む。
とん、と軽い動作で背中が浮いた。
開いたドアに向かうしーさんの背中を追いかける。
煩いくらいの、蝉の声がした。
「西口な」
「うん」
すれ違う人の何人かが、しーさんを振り返る。
確かに黒と金色は目を引く組み合わせで、そうじゃなくてもしーさんは格好良い。
改札を抜けて、踏み出したアスファルト。
濃い影を落とす日差しに目を細める、その間に、しーさんはもう歩き出していた。
よく見れば足元もちゃんとした革靴で、持ってたんだと、ちょっとだけ失礼なことを思った。
煩いくらいの、蝉の声。
少しだけ坂になった道を、まっすぐ歩く黒い背中。
坂の先に見えた和風の門に、あぁ、と目を細めてしまう。
「しーさん、暑くない?」
「暑いな」
「俺、夏嫌い」
「暑いからか」
「……うん」
なんとなく隣は歩けなくて、少し後ろを追いかける。
規則正しいリズムで上がる踵。
ぼんやりと、嫌いなのはそれだけじゃない、と思う。
纏わり付く様な暑さも、強い日差しも、煩いくらいの蝉の声も、全部。
けれども言うのは憚られて、だから、そういうことにしようと思った。
「ネクタイも嫌い、結べない」
「あー、言うとったな」
「だって結んだことないもん」
「そうも言ってられんやろ」
顔は見えないままだけど、声に笑いが含まれたのが分かった。
坂はいつの間にか上りきってしまって、目の前には和風の門。
開かれたそれをくぐれば、ふわりと、線香の匂いがした。
蝉が、鳴いている。
その中を、しーさんは真っ直ぐに歩いていく。
本堂の脇を抜けて、ずらりとお墓が並んだ方へ。
「……しぃ」
さん、と、名前を呼ぶのも躊躇うくらいの静寂と蝉の声。
真っ直ぐに真っ直ぐにお墓の合間を抜けて、辿り着いた一つ。
決して止まらなかった足取りが、一瞬だけ止まった。
振り返る、苦笑に近い、胸がざわざわする笑い方。
「水汲んでくるわ。花、ちょっと預けてええか」
「うん」
「おおきに」
白い花束は、甘い匂いがした。百合独特の、眉を顰めたくなる匂い。
花立ての銀色の筒を持って、しーさんは水場に向かう。
煩いくらいの蝉の声と、強い日差し。
線香の匂いも全部全部、嫌いなものばかり。
――だってここは、誰かの終わりしかない。
ちょっと、と言ったとおり、すぐにしーさんは戻ってきた。
筒をお墓に戻して、俺から花束を受け取って。
骨張った指が、起用にお花を生けていく。
そうしてポケットから取り出したのは線香じゃなくて煙草の箱で、慣れた様子で一本を取り出して。
「澪、ちょお吸ってもええ」
「……うん」
「ん」
ジッポが灯って、消える。明滅する赤。
鼻の奥に残った甘さをかき消す独特の匂いに、無意識の内に溜息が零れた。
一口だけ吸った、まだ長いそれを、しーさんは線香みたいに立てる。
風がないから、真っ直ぐに立ち上る煙。
一つだけ溜息を吐いて、しーさんはまた笑う。
「祥月命日、来れへんかったから」
さっきと同じ、胸のざわめく苦笑。
ついてこなければよかった。
ついてきてよかった。
そんな、全然反対のことを同時に思う。
「しぃ、さん」
「んー?」
平気、とか、知り合い、とかそんな言葉が頭に浮かんだ。
けど聞けなくて、ぱくぱく、口だけが開いて閉じる。
段々視線が足元に落ちて、向こう側でしーさんが笑うのが分かった。
「自分はホンマ、年々ガキになるなぁ」
「……なにそれ、訳わかんない」
「別に気にせんのに、何聞いても」
嘘だ、と思った。
しーさんをあんな顔で笑わせる何かが、なんでもない訳がない。
「そこまでガキじゃないよ」
ねぇしーさん。
掠れた声だったけど、蝉の声に負けずに届いたらしい。
「……俺、着いてきてよかったの」
「あー、まぁ気にせんやろ。ガキ好きやったし」
「だからガキじゃないって。五歳しか違わないじゃない」
「俺小学校入った年に自分等一歳やろ」
「中学校卒業した年にしーさんは成人式だよ」
「十分やろ」
喉で笑いを転がして、しーさんは口元に手を運ぶ。
運んでから煙草が無いのに気付いたのか、軽く竦められる肩。
「……まぁ、別に自分が気にせぇへんかったら構わんよ。辛気臭いやろ」
「別にお寺、嫌いじゃないよ」
「そうか」
「うん……ねぇ、しーさん」
「んー?」
「……だい、じょう、ぶ?」
一瞬だけ、しーさんは面食らったような顔をした。
そうして伸びてきた指は、花の匂いなんてしなかった。
「もう十年も前の話になるから、平気」
嘘だと、思った。
平気なら――そんな、顔で、
「……そっか」
でも、そこに踏み込むのは、躊躇ってしまう。
何も言えなくなった俺の頭を、いつもよりも乱暴にしーさんは撫でる。
「帰ろか、澪」
「いいの」
「んー、まぁ顔見せに来たようなもんやしなぁ」
「待って、俺も拝む」
「拍手打つなよ」
「打たないよ!」
くく、と喉が鳴る。
いつもよりも弱々しい、苦い笑顔。多分、しーさんは平気だって言う。
……けど、十年前の喪失を、そうやって笑うなら。
笑顔で嘘を吐くから、このひとは偶に凄く怖い
そこで思考を止めて、墓前に手を合わせる。
鼻を擽ったのは、やっぱり苦い煙草の煙。
もし、ねぇちゃんが、俺が、唯がみっちゃんが、そうなったら。
――しーさんはやっぱり、そんな顔で笑うのかな。
ふっと浮かんだそれはとてもとても怖い物で、だから必死に意識の底に沈めた。
<嘘です、嘘です。>
(そんなことを思ったなんて、)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
親子で兄弟である種似た者同士の二人。
下手は澪の言う通り、結婚式か葬式かしかスーツを着ないと思った。
多分下手が持っている服の中で、一番ちゃんとした服。
下手は人の死に対して、それなりに経験してきてるけど
親しい人に関しては情を持ちすぎてそれなりに引き摺ると思った。
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