メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
21g小話:火影
双子の少し後ろ向きな話。
暗闇の中、ベッドに投げ出された体。シーツをひっかく音が、起きているんだって知らせてきた。
「ただいま、ねぇちゃん」
電気をつけてベッドサイドに腰掛けて、ようやく視線だけが俺を見た。
「おかえり」は無いけど、視線が動くだけ昔よりはましだと思う。
無造作に広がる紺色のスカートと、そこから伸びた足。ガラスみたいな目。シーツに散らばる、今より短い髪。
浮かんできたそれを意図的に沈めて、息を吸い込む。
「……眠れない?」
首が、小さく横に動く。開けているのも億劫そうな瞳は、焦点が合っていない。
「薬、飲んだの?」
今度は縦に動く首。
ぱたんと落ちた瞼と、胎児みたいに丸くなる細い体。シーツをひっかき続ける指を握り込めば、少し強ばるのが分かった。
「なら、寝れるまで居るよ」
指を握って、目を閉じる。暗がりの中から旋律と歌詞を探し出す。
「amazing grace,how sweet the sound」
シーツをひっかく音は、ねぇちゃんが必死に堪えてる音。沈んでいかないように墜ちないように、柔らかい布に肌に爪を立てて。
「That saved a wretch I like me」
それで堪えられなくなれば、平気と笑って手首を切る。
「I once was lost,but now am found」
手を伸ばしてくれれば、俺も皆もそれを取るのに。
それでもねぇちゃんは手なんて伸ばさないで、一人で暗い場所に沈む。
「Was blind,but now I see.」
一緒に沈もうと言えれば、何か変わるのだろうか。
そんな考えが頭をよぎるけど、俺に出来るのはこうやって手を握って――これ以上墜ちないように、祈るくらいしか。
落ち着いたのか、それとも薬が効いてきたのか、歌詞の合間に寝息が届く。
肩越しに振り返れば、真っ白い顔で眠るねぇちゃん。
細い指はもう、シーツをひっかきはしないけど。
「……おやすみ、ねぇちゃん」
まだ手は離し難くて、だから、残りを歌いきってしまうことにした。
<常夜灯>
「ただいま、ねぇちゃん」
電気をつけてベッドサイドに腰掛けて、ようやく視線だけが俺を見た。
「おかえり」は無いけど、視線が動くだけ昔よりはましだと思う。
無造作に広がる紺色のスカートと、そこから伸びた足。ガラスみたいな目。シーツに散らばる、今より短い髪。
浮かんできたそれを意図的に沈めて、息を吸い込む。
「……眠れない?」
首が、小さく横に動く。開けているのも億劫そうな瞳は、焦点が合っていない。
「薬、飲んだの?」
今度は縦に動く首。
ぱたんと落ちた瞼と、胎児みたいに丸くなる細い体。シーツをひっかき続ける指を握り込めば、少し強ばるのが分かった。
「なら、寝れるまで居るよ」
指を握って、目を閉じる。暗がりの中から旋律と歌詞を探し出す。
「amazing grace,how sweet the sound」
シーツをひっかく音は、ねぇちゃんが必死に堪えてる音。沈んでいかないように墜ちないように、柔らかい布に肌に爪を立てて。
「That saved a wretch I like me」
それで堪えられなくなれば、平気と笑って手首を切る。
「I once was lost,but now am found」
手を伸ばしてくれれば、俺も皆もそれを取るのに。
それでもねぇちゃんは手なんて伸ばさないで、一人で暗い場所に沈む。
「Was blind,but now I see.」
一緒に沈もうと言えれば、何か変わるのだろうか。
そんな考えが頭をよぎるけど、俺に出来るのはこうやって手を握って――これ以上墜ちないように、祈るくらいしか。
落ち着いたのか、それとも薬が効いてきたのか、歌詞の合間に寝息が届く。
肩越しに振り返れば、真っ白い顔で眠るねぇちゃん。
細い指はもう、シーツをひっかきはしないけど。
「……おやすみ、ねぇちゃん」
まだ手は離し難くて、だから、残りを歌いきってしまうことにした。
<常夜灯>
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