忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

21g小話:火影

双子の少し後ろ向きな話。


 暗闇の中、ベッドに投げ出された体。シーツをひっかく音が、起きているんだって知らせてきた。
「ただいま、ねぇちゃん」
 電気をつけてベッドサイドに腰掛けて、ようやく視線だけが俺を見た。
 「おかえり」は無いけど、視線が動くだけ昔よりはましだと思う。
 無造作に広がる紺色のスカートと、そこから伸びた足。ガラスみたいな目。シーツに散らばる、今より短い髪。
 浮かんできたそれを意図的に沈めて、息を吸い込む。
「……眠れない?」
 首が、小さく横に動く。開けているのも億劫そうな瞳は、焦点が合っていない。
「薬、飲んだの?」
 今度は縦に動く首。
 ぱたんと落ちた瞼と、胎児みたいに丸くなる細い体。シーツをひっかき続ける指を握り込めば、少し強ばるのが分かった。
「なら、寝れるまで居るよ」
 指を握って、目を閉じる。暗がりの中から旋律と歌詞を探し出す。
「amazing grace,how sweet the sound」
 シーツをひっかく音は、ねぇちゃんが必死に堪えてる音。沈んでいかないように墜ちないように、柔らかい布に肌に爪を立てて。
「That saved a wretch I like me」
 それで堪えられなくなれば、平気と笑って手首を切る。
「I once was lost,but now am found」
 手を伸ばしてくれれば、俺も皆もそれを取るのに。
 それでもねぇちゃんは手なんて伸ばさないで、一人で暗い場所に沈む。
「Was blind,but now I see.」
 一緒に沈もうと言えれば、何か変わるのだろうか。
 そんな考えが頭をよぎるけど、俺に出来るのはこうやって手を握って――これ以上墜ちないように、祈るくらいしか。
 落ち着いたのか、それとも薬が効いてきたのか、歌詞の合間に寝息が届く。
 肩越しに振り返れば、真っ白い顔で眠るねぇちゃん。
 細い指はもう、シーツをひっかきはしないけど。
「……おやすみ、ねぇちゃん」
 まだ手は離し難くて、だから、残りを歌いきってしまうことにした。

<常夜灯>
PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
メール
URL
コメント
絵文字
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード

この記事へのトラックバック

この記事にトラックバックする

カレンダー

06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

ブログ内検索

バーコード

P R