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落書き走り書き。

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スーツ澪。
自分のなんて持ってないから唯から借りたと思われ。
ネクタイも結べないから姉にやってもらいました。 (←

続きに小話。
「おはようございます」
 機嫌の悪い声に振り返れば、見たことが無い澪が居た。
 濃いグレーのスーツと、黒いネクタイ。普段降ろしている前髪も、今は左右に分けていて。
 なんというか。
「……七五三?」
 無意識の内に口から出た呟きに、隣に立っていたソーセイが吹き出した。
 こちらも同じくスーツだけれど、基本衣装が似たようなものだから澪程違和感はない。
 背中に背負ったギターケースが無ければ、社会人と言っても通じそうだと思う。
「澪君どうしたの、スーツとか初めて見た」
「……本家と飯食ってきた」
 蜜の問いに至極不機嫌そうにそう返し、前髪を止めていたピンを外す澪。
 乱暴に前髪をかき混ぜながらネクタイを緩めて、深い溜息を吐く。
「……えらく機嫌悪いな」
 ギターのチューニングを始めたソーセイに小声で訊ねれば、見上げてくる顔には苦笑が浮かぶ。
 ひょいひょい、と手招きに従ってスタジオの床に腰を降ろせば、それはますます深くなった。
「ちょっと苦手な人達と、お付き合いでご飯だったんで」
「本家?」
「……ええ、まぁ」
  一瞬開いた空白に、今更考えなしの発言を後悔した。
 これ以上は聞けないから、どうにか話を変えれんかと無い頭をフル回転させる。 
「蜜やないけど、スーツ着た澪とか初めて見たわ」
「あれ唯のですよ。澪持ってないから」
「……あぁ、道理で袖余っとる訳や」
「最初は私の着る、って言ってたんですけど、流石に女物なので」
 おどけてみせようとして、でも笑いきれなかった顔が浮かぶ。
 少し誰かに突かれたら、きっと壊れてしまいそうな、そんなぎりぎりの。
 なるたけ何時も通りに頭を撫でれば、ぱちくり、黒が瞬く。
「顔色悪いけど、もしかして煙草吸えんかった?」
「……そこまでニコチン中毒じゃないと思いたいんですけど」
「え、でも煙草吸えんと苛々せぇへん?」
「あー、確かに」 
 くすくす、さっきよりはマシな形な笑顔が浮かぶ。
 けれども顔色が悪いのは確かで、苦手なのは澪だけじゃないことが見て取れる。
「始める前に吸ってきたらええやん。一本やったら大した時間やないやろ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「おう」
 くしゃくしゃに頭を撫ぜてから立ち上がる。
 振り返った先で、白い頭は必至にネクタイを外そうとしていた。緩めたは良いが絡まったらしい。「澪、外したるからこっち来ィ」
「……うん」
 ソーセイとは対照的に、不機嫌が見て分かる声と顔。
 やって、と差しだされたネクタイは、不格好に絡まっていた。
「自分普段やらへんやろ」
「……しーさんだってそうでしょ」
「残念ながら、ネクタイは結べますから、俺」
 ほら出来た、と手を離せば、それを追いかけるように伸びる指。
 服の裾を掴む動作は相方に似ていて、こんなトコまで双子なんやなぁ、とぼんやり思った。
 白い髪を撫ぜれば、白くなる指。
「……しーさん」
「んー?」
「……しー、さん」
「うん」
 その先に言葉は続かなくて、代わりに腕が伸びてきた。
 子供みたいに抱きついてきたその頭を撫でれば、ぎゅうと力が籠る。 
「    は、         ない」
 くぐもった声は何と言ったのか分からなかったけど、聞き返してはいけないと思った。
 代わりにさっきよりは乱暴に頭を混ぜて、喉で笑う。
「しっかし唯のスーツやったら七五三やな」
「……もうとっくに終わってるもん」
「さいで」
 見上げてきた顔はむくれているけれど、さっきまでの暗さはない。
  もう一度だけ腕に力が籠って、それからすぐに離れていく。
「しーさん」
「んー?」
「……俺、しーさん好きだよ。唯もみっちゃんも、好きだよ、俺」
「……どうした、急に」
「ううん」
 答えになんかならない声を返して、澪は笑う。
 その笑顔がまた相方に被って見えて、零れそうになった溜息を飲みこんで。
「そんなこと言うたって、スタジオ終わりに駄菓子くらいしか奢れんぞ」
「駄菓子なら奢ってくれんの?」
「駄菓子ならな」
 やった、と笑顔が変わる。あぁ、まだその方がいい。
 今度はちゃんと溜息を吐いて、スタンドに立てかけたままのギターに向かう。
「                   」
 何とはなしに呟いたであろうそれは、今度はきちんと聞こえてしまった。
 振り返りかけた肩をどうにか抑え込む。
 垣間見えた、不機嫌と白い顔の理由。
 きっと俺に知られることは不本意なそれは、傍から聞いても胸糞が悪い。
 握ったネックで弦が悲鳴を上げて、予想以上に動揺していることを知る。
 「しーさん?」と怪訝そうな声を上げたのは唯だ。
「帰りどっかで飯食おうや。甘いもん食えるトコ」
「え、何しーさん奢り」
「三百円までなら俺が出したる。あとは自腹な」
「ちょ、駄菓子より何かランクアップしてる!」 
 やった、と笑う澪の顔は見慣れた形だ。
 それが出てきたことに、今度は安堵の息が零れた。
俺の所為で皆を悪く言わせない
 頭ン中で何度も繰り返される、小さな、けど重い呟き。
 一人で抱え込もうとする辺りも、やっぱり相方に似ている。
 ……あぁ、ホンマ阿呆やなぁ。
  言葉になり切れなかったそれは、今日一番の溜息になって、床に落ちていった。
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