メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
21g小話:あいまい、あまい?
http://shindanmaker.com/122300で出た御題。
なんだかんだ言って双生は澪に甘いような気が。
ついでに作中の「隠し味」は蜂蜜です。
なんだかんだ言って双生は澪に甘いような気が。
ついでに作中の「隠し味」は蜂蜜です。
俺一人じゃ歌えない。
誰かが音を、曲をくれなきゃ歌えない。
それは紛れも無い事実で、自分でも分ってる。
そんな俺に、ねぇちゃんは音を曲をくれる。
六弦と七音で、俺を歌わせてくれる。
ねぇちゃんがそうだっていうのは、凄く凄く恵まれてたことなんだっても、知ってる。
でも、
「澪、起きてる?」
控え目なノックの後に、ねぇちゃんの顔が扉から覗く。俺の顔を見て、目を細めて。
「起きてるなら、ちょっとお茶、付き合わない?」
「……う、ん」
時計を見れば日付が変わって大分経っていて、こんな時間にねぇちゃんが声をかけてくるのは珍しい。
ぺたぺた、裸足のまま向かったリビング。部屋が暗かったから、光が目に突き刺さる。
眇めた目の向こうで少しだけ、煙草の匂いがした。
「ちょっと待って」
「うん……ねぇちゃん、珍しいね、お茶」
「まぁ、気分?」
普段はコーヒーばっかりなねぇちゃんは、思い出したように紅茶を淹れる。甘い物が欲しいときはココアにする。
コーヒーと、紅茶と、ココア。それから、みっちゃん用の緑茶。
しーさんには「喫茶店か!」って言われたけど、ずっとそれが普通だと思ってた。
お湯の沸く音が聞こえる。あぁ、ちゃんとガスで沸かしたんだ。
こぽこぽと、ポットに注がれる音を聞きながら目を閉じる。
半分以下の俺は、けど、半分以上のねぇちゃんがいなくなっても終われない。
でも、ねぇちゃんがいなくなるのは凄く怖い。
ねぇちゃんのことは、好き。凄く凄く好きで、大事。
でも、それは本当に、『ねぇちゃん』だからか。
ひゅうと喉が鳴るのと、甘い匂いが漂ってくるのは一緒だった。
普段とは違う匂いに顔をあげる。甘い甘い、優しい匂い。
キッチンからやってきたねぇちゃんの手には、カップが二つ。
渡された片方には、甘い匂いのする薄茶色の液体が満ちていた。
「……ねぇちゃん、なぁに、これ」
「お茶」
「紅茶じゃない……よね?」
「あぁ、ハーブティー」
「おぉ、新しのだ」
「うん、ちょっと薦められて」
息を吹きかけて口をつけたそれは、オレンジみたいな味がした。けど、それだけじゃない甘さ。
喉を降りていく暖かさに溜息が出て、体が冷えていたんだって分かった。
それが聞こえたらしく、隣のねぇちゃんが喉を鳴らす。
「美味しい?」
「うん、甘いんだね……もっと、苦いと思ってた」
「んー、カモミールとオレンジピールとリンデン……割と甘い奴のブレンドだし、アンタのには隠し味入れたしね」
「砂糖?」
「秘密」
「えー」
隠し味だもん、だなんて笑って、それからねぇちゃんは溜息を一つ。
煙草の匂いが染み付いた指が、わしゃわしゃ俺の頭をかき混ぜて。
「澪」
「なぁに、ねぇちゃん」
「何て言われた?」
静かな声に、カップを落とすかと思った。
顔をあげた先で、ねぇちゃんが苦く笑っている。え、なんで、
「……酷い顔してるもん、分かるよ」
「ね、ちゃ……」
「律でしょ?」
ひゅうと鳴った、喉が答えたようなものだった。
ますます苦くなった笑いに泣きそうになる。
「……普段は流すのに、何が引っかかったの」
「なん、で、ねぇちゃ、いなかった……」
「……本家が携帯知ってる訳がないし、まぁ一昨日私にも来たからね、電話」
苦く、苦くねぇちゃんは笑う。
かたかた、カップの水面に波紋が広がる。
零さないでね、だなんて伸びてくる掌。
「何、言われた?」
「……いっぱい」
「そっか」
言われたことはもう、断片的にしか思い出せないけど。
それでも、思い出そうとすると息が詰まって頭が痛む。
「ねぇちゃん」
「んー?」
「ねぇ、ちゃん」
ねぇちゃんがギターを弾く、それは俺にとって最早アタリマエ。
だけど、ギターを弾くからねぇちゃんが好きなのか。
ねぇちゃんだから、上手に置いているのか。
そう問われると――答えられない。答え、られなかった。
「なぁに、澪」
「……一杯、言われて、何も言えなかった」
「あの子、口は達者だからね」
「言い返そうと思ったけど、でも、俺ん中でも固まってなくて、それで」
「言えなかった?」
その通りだったから頷けば、ねぇちゃんはまた頭を撫でてくれた。
しーさんとはまた違う、もっと馴染んだ、優しい撫で方。
「っ……」
ねぇちゃんよりももっと上手いギタリストは何人も居ると、弟は言った。
それでも俺はねぇちゃんが良いと返せば、弟は鼻で笑った。
身内だから置いているんじゃないの?(違うそんなんじゃない)
ギター弾いてなくてもアンタは怜にそこまで執着してた?(弾いてなくてもねぇちゃんはねぇちゃんだよ怜だなんて呼ばないで)
『ねぇ、アンタはさ』
機械越しに響く歪んだ声は、どこかで聞いたことがある気がした。
『ギターを弾くから怜が好きなの? それとも、ダイスキな怜にギター弾かせてるの?』
「固まってないものは、無理に言葉にしなくていいんじゃない?」
嘲う声を掻き消す、少し掠れた声。言葉と一緒に、頬に下りてくる左手。
指先が硬くなる位に弦を押さえて、それでもまだ足りないという手。
上手い人は、一杯いる。ねぇちゃんよりも、しーさんよりも。
けど、俺は――この左手がいい。
「曖昧ってことは、まだ期じゃないってことよ」
「……そう、かな」
「だと、私は思うけど。そこで無理に言っても、そこから揚げ足取ってくるだけだしね」
「……ねぇちゃんは、律に強いよね」
「まぁ、アンタよりは口達者だからね」
目を細めた笑顔に、小さく溜息が零れる。
カップの中の液体みたいに甘い、暖かい許容。優しいそれに、泣きたくなる。
左手に手を重ねれば、くすりと零れる笑い声。
「少し、落ち着いた?」
「……うん」
「飲んじゃったら、ちゃんと寝なさいね。もうすぐ歌撮りだから」
「うん」
「よし」
わしゃわしゃ、髪の毛をかき混ぜてくれるねぇちゃん。
暫く遠ざかっていた眠気がすぐそこまで来ていて、出来るならソファーで寝てしまいたいくらい。
けど、今喉を嗄らしたら駄目だから、カップを置いて立ち上がる。部屋までが、遠くなった気がした。
「おやすみ、澪」
開かなくなってきた瞼にも分かるくらい綺麗に、ねぇちゃんが笑う。
甘い匂いと、どろどろになりそうな優しさと。
そうやって大丈夫だって言うみたいに笑うから、俺はまた答えを出すのを先延ばしにする。
「うん、おやすみ、ねぇちゃん」
それでもいいよと貴女が言うから、今日の夜は少しだけ、幸せな夢が見れそうだ。
<あいまい、あまい?>
(融けそうなくらいに、あまい。)
誰かが音を、曲をくれなきゃ歌えない。
それは紛れも無い事実で、自分でも分ってる。
そんな俺に、ねぇちゃんは音を曲をくれる。
六弦と七音で、俺を歌わせてくれる。
ねぇちゃんがそうだっていうのは、凄く凄く恵まれてたことなんだっても、知ってる。
でも、
「澪、起きてる?」
控え目なノックの後に、ねぇちゃんの顔が扉から覗く。俺の顔を見て、目を細めて。
「起きてるなら、ちょっとお茶、付き合わない?」
「……う、ん」
時計を見れば日付が変わって大分経っていて、こんな時間にねぇちゃんが声をかけてくるのは珍しい。
ぺたぺた、裸足のまま向かったリビング。部屋が暗かったから、光が目に突き刺さる。
眇めた目の向こうで少しだけ、煙草の匂いがした。
「ちょっと待って」
「うん……ねぇちゃん、珍しいね、お茶」
「まぁ、気分?」
普段はコーヒーばっかりなねぇちゃんは、思い出したように紅茶を淹れる。甘い物が欲しいときはココアにする。
コーヒーと、紅茶と、ココア。それから、みっちゃん用の緑茶。
しーさんには「喫茶店か!」って言われたけど、ずっとそれが普通だと思ってた。
お湯の沸く音が聞こえる。あぁ、ちゃんとガスで沸かしたんだ。
こぽこぽと、ポットに注がれる音を聞きながら目を閉じる。
半分以下の俺は、けど、半分以上のねぇちゃんがいなくなっても終われない。
でも、ねぇちゃんがいなくなるのは凄く怖い。
ねぇちゃんのことは、好き。凄く凄く好きで、大事。
でも、それは本当に、『ねぇちゃん』だからか。
ひゅうと喉が鳴るのと、甘い匂いが漂ってくるのは一緒だった。
普段とは違う匂いに顔をあげる。甘い甘い、優しい匂い。
キッチンからやってきたねぇちゃんの手には、カップが二つ。
渡された片方には、甘い匂いのする薄茶色の液体が満ちていた。
「……ねぇちゃん、なぁに、これ」
「お茶」
「紅茶じゃない……よね?」
「あぁ、ハーブティー」
「おぉ、新しのだ」
「うん、ちょっと薦められて」
息を吹きかけて口をつけたそれは、オレンジみたいな味がした。けど、それだけじゃない甘さ。
喉を降りていく暖かさに溜息が出て、体が冷えていたんだって分かった。
それが聞こえたらしく、隣のねぇちゃんが喉を鳴らす。
「美味しい?」
「うん、甘いんだね……もっと、苦いと思ってた」
「んー、カモミールとオレンジピールとリンデン……割と甘い奴のブレンドだし、アンタのには隠し味入れたしね」
「砂糖?」
「秘密」
「えー」
隠し味だもん、だなんて笑って、それからねぇちゃんは溜息を一つ。
煙草の匂いが染み付いた指が、わしゃわしゃ俺の頭をかき混ぜて。
「澪」
「なぁに、ねぇちゃん」
「何て言われた?」
静かな声に、カップを落とすかと思った。
顔をあげた先で、ねぇちゃんが苦く笑っている。え、なんで、
「……酷い顔してるもん、分かるよ」
「ね、ちゃ……」
「律でしょ?」
ひゅうと鳴った、喉が答えたようなものだった。
ますます苦くなった笑いに泣きそうになる。
「……普段は流すのに、何が引っかかったの」
「なん、で、ねぇちゃ、いなかった……」
「……本家が携帯知ってる訳がないし、まぁ一昨日私にも来たからね、電話」
苦く、苦くねぇちゃんは笑う。
かたかた、カップの水面に波紋が広がる。
零さないでね、だなんて伸びてくる掌。
「何、言われた?」
「……いっぱい」
「そっか」
言われたことはもう、断片的にしか思い出せないけど。
それでも、思い出そうとすると息が詰まって頭が痛む。
「ねぇちゃん」
「んー?」
「ねぇ、ちゃん」
ねぇちゃんがギターを弾く、それは俺にとって最早アタリマエ。
だけど、ギターを弾くからねぇちゃんが好きなのか。
ねぇちゃんだから、上手に置いているのか。
そう問われると――答えられない。答え、られなかった。
「なぁに、澪」
「……一杯、言われて、何も言えなかった」
「あの子、口は達者だからね」
「言い返そうと思ったけど、でも、俺ん中でも固まってなくて、それで」
「言えなかった?」
その通りだったから頷けば、ねぇちゃんはまた頭を撫でてくれた。
しーさんとはまた違う、もっと馴染んだ、優しい撫で方。
「っ……」
ねぇちゃんよりももっと上手いギタリストは何人も居ると、弟は言った。
それでも俺はねぇちゃんが良いと返せば、弟は鼻で笑った。
身内だから置いているんじゃないの?(違うそんなんじゃない)
ギター弾いてなくてもアンタは怜にそこまで執着してた?(弾いてなくてもねぇちゃんはねぇちゃんだよ怜だなんて呼ばないで)
『ねぇ、アンタはさ』
機械越しに響く歪んだ声は、どこかで聞いたことがある気がした。
『ギターを弾くから怜が好きなの? それとも、ダイスキな怜にギター弾かせてるの?』
「固まってないものは、無理に言葉にしなくていいんじゃない?」
嘲う声を掻き消す、少し掠れた声。言葉と一緒に、頬に下りてくる左手。
指先が硬くなる位に弦を押さえて、それでもまだ足りないという手。
上手い人は、一杯いる。ねぇちゃんよりも、しーさんよりも。
けど、俺は――この左手がいい。
「曖昧ってことは、まだ期じゃないってことよ」
「……そう、かな」
「だと、私は思うけど。そこで無理に言っても、そこから揚げ足取ってくるだけだしね」
「……ねぇちゃんは、律に強いよね」
「まぁ、アンタよりは口達者だからね」
目を細めた笑顔に、小さく溜息が零れる。
カップの中の液体みたいに甘い、暖かい許容。優しいそれに、泣きたくなる。
左手に手を重ねれば、くすりと零れる笑い声。
「少し、落ち着いた?」
「……うん」
「飲んじゃったら、ちゃんと寝なさいね。もうすぐ歌撮りだから」
「うん」
「よし」
わしゃわしゃ、髪の毛をかき混ぜてくれるねぇちゃん。
暫く遠ざかっていた眠気がすぐそこまで来ていて、出来るならソファーで寝てしまいたいくらい。
けど、今喉を嗄らしたら駄目だから、カップを置いて立ち上がる。部屋までが、遠くなった気がした。
「おやすみ、澪」
開かなくなってきた瞼にも分かるくらい綺麗に、ねぇちゃんが笑う。
甘い匂いと、どろどろになりそうな優しさと。
そうやって大丈夫だって言うみたいに笑うから、俺はまた答えを出すのを先延ばしにする。
「うん、おやすみ、ねぇちゃん」
それでもいいよと貴女が言うから、今日の夜は少しだけ、幸せな夢が見れそうだ。
<あいまい、あまい?>
(融けそうなくらいに、あまい。)
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