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21g小話:出来損ないの欠陥商品

一日一つお題きめったー 【http://shindanmaker.com/134159】にて蜜と双生に出たお題
『自販機でよく買うジュースが繋いだ恋』or『出来損ないの欠陥商品 』【いじめっ子】
に滾った結果。

続きに高校時代の太鼓と上手、それから友人達。
ししゅんきまっさかり。


 レイ君歌うの好きだっきゃの。
 内心で呟いたと思ったそれは、知らない内に言葉になっていたらしい。
 二人しかいない教室の中で、それが掻き消える筈も無く。
 対面でプリントに向かっていた双眸が、静かにこちらを見上げる。
 瞬きを繰り返す、何処か虚ろな黒。
「……今更じゃない、それは」
「ん、まぁ、んだばってさ」
 数式を解き終えた所で、紙の上に転がるシャープペンシル。
 ヤマさん、と問えば、彼女は頬杖を付いて。
「なんでまた、今になって」
 どうやら興味を引いたらしいそれに、何処から説明しようかと半瞬の諮詢。
「レイ君、英語まいねっきゃ。テスト」
「……まぁ、英語に限ったことじゃないけど」
「ふは。単語一つ読むのも危ういばって――歌だば、たげだ覚えるっきゃ」
 先日カラオケに行った時のこと。
 兄が貸した洋楽を、友人はモニタを見ずに歌いきった。
 当然のように、楽しそうに。
「――だって澪は、歌わなきゃ死んじゃうから」 
 そうして彼の双子の片割れは、至極楽しそうにそう呟く。
 穏やかな、ともすれば儚いと称されるような顔で。
 あぁそうなのかと納得してしまう、そんな綺麗な妄言を。
「私はね、満幸君」
「ん」
「澪は天才だって思ってる」
 当然のように、何処か嬉しそうに、対面に座った彼女は言葉を紡ぐ。
「あそこまで何かを好きだって言える、それは才能でしょう?」
 喪服みたいな黒いセーラー服。
 首を傾げた拍子に揺れた、長い前髪は同じ色。
 病的に白い肌の色に映える、夜の色。
「学校柄、出来損ないだって言われるけど、そんなこと、無い」
 音にはならなかったけど、その唇はむしろ、と動いた。
 細められた目が、伏せられる。
 続いた「まぁ、馬鹿ではあるけど」はきっと何かを誤魔化したかったんだろう。
 頬杖を付いた左の袖口から覗く、白い包帯。
 しにたくはないよ、しねないんだ。
 そう言いながら繰り返すそれは、理解も共感も出来ない類。
「……出来損ない、なんかじゃない」
「あぁ」
 ――今日も綺麗に彼女は欠けている。
「んだねぇ、ヤマさん」
 ベクトルは間逆に、けど二人とも、一人分には到底足りない。
 けれどもそれは、当然なのかもしれない。
 膝丈で揺れる裾と、黒いタイツと、指先が隠れるようなフリルの付いた袖。
 表情を消した彼は、くるくる回って嗤う。
『ねぇ、こうすればおんなじでしょう?』
 鏡の向こう側に成りたいんだと、夢でも見るように呟いたのは何時だったか。
 内緒だよ、みっちゃん。
 唇に指を当てて、泣き出しそうに嬉しそうに、彼は嗤う。
 昏い昏い双眸は、見る度に背筋が冷えるけど、同時に安心もする。
 ――あぁ、ここまで、欠けなくて良かった。
「歌ってらレイ君は、幸せそうだもんねぇ」
「うん」
「んでもって、それ見てらヤマさんも、幸せそうだね」
 ぱちくり、驚いたように瞬く黒。
 呆気に取られた様な顔は珍しくて、思わず声を上げて笑ってしまった。
 嗚呼、嗚呼、相変わらず。
 ――彼女は『自分のこと』には疎い。
 上がった視線が、手元に落ちる。しんと静まり返った、二人しかいない教室。
「……幸せそうか、どうかは、分からないけど」
「うん」
「……幸せそう、っては思うし、新しい曲覚えなきゃっても、思う」
「うん」
「だって、澪は歌わなきゃ死んじゃう、から」
「うん――そうだね、ヤマさん」
 だからこそ、彼はあんなにも。
 そう思った所で、騒がしい足音が近付いてくる。落ちた視線が、そちらに向かう。
「ねぇちゃん、みっちゃん、お待たせ!」
 同じつくりの顔と、同じ色の髪と、同じ長さの髪型。
 違うのは浮かぶ表情と、身に着ける制服。
 そうでもしなければきっと、俺は彼等を見分けられない。
「どうだった、澪」
「分かんなかった! もっかい再テストかも」
「……馬鹿」
 机の傍まで寄ってきた弟を、彼女は骨みたいな指で撫でる。
 子供みたいな顔で、彼はそれを受け入れる。
「だって俺、馬鹿だもん」
「オイ玲、お前筆箱忘れてんぞ」
「れーち持ってきてくれたじゃん」
「人頼ンな馬鹿、しっかも全力で走りやがって」
「俺本気出したらもっと速いよ」
「それ誇るところかよ」
「澪」
 嗜める声に、彼は喉で笑いを転がした。
 手近に合った椅子を引いて、机の上にあったプリントに顔をしかめる。
「ねぇちゃん、後で写させて」
「教えてあげるから自分で解きなさい」
「そーそー。俺写させて貰うから」
「伶一も……ていうか、お前も再テスト平気なの」
「あ? あー、ぎりぎりで通れる程度の勉強はしてきた」
「最初からしなさいよ」
 眼前で繰り広げられる、いつものやり取り。
 そうしていれば全く普通に見えるのは、多分イチ君のおかげなんだろう。
 それでも違和感を拭い去れないのは、きっと端々に混じる言葉が原因。
 ……だって彼等は決して、互いを『名前』で呼ばないから。
「いいじゃん、終ったし! ねぇちゃんみっちゃん、カラオケ行こっ」
「はいはい」
 呆れたように溜息を落として、彼女は広げたプリントを鞄にしまう。
 その一瞬、覗いた左手首の包帯に、彼の目に陰が落ちる。
 けれどもそれを悟らせる前に、いつもみたいにレイ君は笑って。
「こないだみっちゃんから借りたCD覚えたよー。あとね、あとね、瑠璃ちゃん好きなバンド入ったって」
「アンタはもうちょっと、落ち着いて喋りなさい」
「だって楽しみなんだもん」
 歌うことが全てだと、公言して憚らない彼と。
 伽藍に音と歪を詰め込んだ彼女と。
 あぁ、今日も綺麗に欠けている。
「みっちゃんも、楽しみ?」
「……え?」
 そう言って覗き込んできた友人に、咄嗟に言葉が出てこなかった。
 姉よりは健康的な指が、頬に触れる。
 だって、と笑う唇が、
「笑ってる」
 ――歪んでいるように見えるのは、きっと、俺の気の所為だ。
「んだねぇ、レイ君、また上手くなったべさ」
「上手いかどうかは分からないけど、覚えた!」
「そっか」
 黒をかき混ぜれば、年に不釣合いな、子供みたいな顔で彼は笑う。
 その穴だらけの笑顔に、あぁ良かったと、心の中で嘆息が落ちた。

<出来損ないの欠陥商品>

(そうやって安堵する自分も、相当に、)

+++++++++++++++++++++++++++++++
今よりもっとぐちゃぐちゃな太鼓と、今よりもっと歪な上手。
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