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21g小話:at

双子のある朝の話。


冷蔵庫を開けて、閉める。胃の中にある不快感。
 背中で落ちるコーヒーの音に、別に良いかという気分になる。元々、朝は食べなくても動けるし。
 こぽこぽ、その音に目を閉じるのと、
「おはよ、ねぇちゃん」
 眠たい声が掛かるのは同時だった。目を擦りながらこちらに来る弟は、完全に予想外。
「……どしたの、澪。」
 朝までバイトだったでしょ、と問えば、おなかすいた、と子供みたいな返答。
 一度寝ればなかなか起きないのを知っているから、その言葉に思わず眉が寄るのが分かった。
 何か暖かいものを、とキッチンを見回して、目に飛び込んできたそれを手に取る。
 水を入れた薬缶をガスにかけてから振り返れば、澪はソファーに体を預けてうとうとしていた。
「結構食べる?」
「んー……」
 冷蔵庫から食パンを取り出して、トースターに入れる。
 その間にマグカップに粉末をあけて、お湯が沸くまで少しを待つ。
「……今日一コマ目から?」
「うん。アンタは午前中ないんでしょ」
「ん……お昼から」
 少しぬるめのお湯で溶いた、コーンクリームスープ。
 澪の分には、焼けたパンを賽の目に切って入れて。
 スプーンを差したマグカップを渡せば、覚醒しきってない顔が笑う。
「……あんがとねぇちゃん」
「それ食べたら寝ろよ。体保たないから」
「うん」
 隣に腰掛けて、自分のマグに息を吹きかける。どろりとした液体は、まだ許容範囲。
 時計の針の音だけがするリビング。時折、金茶の頭が眠たげに揺れる。
 空になったマグをシンクに置いて、小さめのコップにコーヒーを注ぐ。残りは、水筒に。
 そうしている間に澪も食べ終わったらしく、隣に並ぶ色を抜いた髪。
 「ごちそうさま」と笑う頭を撫でれば、くすくす零れる笑い声。
「じゃあ、おやすみ。澪」
「ん……ねぇちゃんも、いってらっしゃい」
 ちぐはぐな挨拶を交わして、部屋に戻る背中。
 それを見送りながら口に運んだコーヒーは、少し、苦かった。

<at>
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