メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
テロまとめ。そのさん。
Twitterでやらかした140文字テロのログそのさん。
【】は「【オリ盤】でお題しようぜ」様からお借りした御題です。
【】は「【オリ盤】でお題しようぜ」様からお借りした御題です。
+++++++++++++++++++++++++++++++
BPM200。そんな曲を持ってきたのは一番苦手な人。
今までにない速さの中で、その背中だけはいつも通りに伸びて。
シンバルの合間から俺を見た、切れ長の目が笑う。
『楽しいやろ』と、言われた気がした。
見透かされている気がした。
嗚呼、嗚呼――その通りだよ、畜生。
【ドメスティック・サウンド】
+++++++++++++++++++++++++++++++
恵比寿、赤坂、心斎橋、川崎。
行った事はあれども、演ったことはない箱の方が多い。
「あーあ」
「唯ちゃん?」
「……先は遠いね」
お台場、渋谷、新木場。そうしていつかは――九段下。
そう零せば、相方は首を傾げて。
「水道橋、じゃねぇんず?」
その言葉に、思わず笑ってしまった。
【箱匣キャパシティ】
+++++++++++++++++++++++++++++++
喉に悪そうなそれを試せば、すぐに声は出なくなった。
「これじゃ、この後歌えないね」
そう言った顔は心底悔しそうだったから。
「やらなくていいよ、澪」「え」「私、やるから」
「でも」
見上げてくる目は、不安げに揺れる。
「アンタは歌ってなさい」
――それ以外は、私がやるから。
【冒険デスボイス】
+++++++++++++++++++++++++++++++
見慣れない楽器の、弦は三本。
ピックといには大きすぎるそれを振り下ろせば、空気が震えた。
「蜜さん三味線弾けんの」
「弾ける、だけですけど」
「ピアノとギターもやろ」
万能やなぁ。弑がそう呟けば、蜜は困った様に笑った。
「できる、とやりたい、と、上手い、は違いますよ、しーさん」
+++++++++++++++++++++++++++++++
しーさんの曲は暴力的に、ギターの目立つ曲。
みっちゃんの曲はメロディアス。
客観視すれば、好みは如実に出ていると思う。
なら、俺の曲はどうなんだろう。改めて聞けば苦笑する。
「……まぁ、そうなるわな」
咲いて踊って。やっぱり好みは出てしまうようだ。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「弑さん」
少し高い所からの呆れたような声。
「人のこと言えないです」
「や、食っとるし」
「カップラーメン一日一個はご飯にカウントしません」
心底呆れた様子にでも、と反駁したのは、いつも言っているからか。
「公共料金払える分は残して」
「だからって生活費やしてアンプ買いません普通」
+++++++++++++++++++++++++++++++
歩幅どころか、スタートラインが違う。
だから追いつくどころか距離は離されて、気付いた彼が振り返って名前を呼ぶのだ。
それにまた、足りないものを思い知る。
指の長さ、踏んだ場数、そんな諸々。
「ソーセイ」
息が詰まりそうになりながら、笑い混じりのそれに。
「お待たせしました、弑さん」
+++++++++++++++++++++++++++++++
「しーさん、セッションって楽しい?」
「ん、まぁな」
「ふぅん」
半眼の問いに、弑は首を傾げる。
蜜さん。その声に振り返る、ドラマーはいつもの笑顔。
「自分等はやらんの」
「うん、やったことない」
「勿体無い」
その言葉に、蜜は喉で笑う。
「俺(わ)は今が一番楽しいはんで、いがね」
+++++++++++++++++++++++++++++++
天才ってなんだと思う?
その問いに、白い唄歌いは首を傾げた。
「五オクターブ」
返ってきたのは存外にしっかりした声。
「五オクターブはもう『天才』だよねぇ、社長」
苦みの強い形で、彼は笑いながらそう言った。
羨ましいよね、の一言が、彼から出たのが意外だった。
+++++++++++++++++++++++++++++++
俺より随分とマトモなみっちゃんはでも、俺より恋愛は長続きしない。
「ヤマさんのが大事でしょ、って言われてまった」
赤く腫らした頬で笑うのは何回目か。
「んなことねぇべ。したけどみっちゃん本命には弱いよな」
「……おっかないから」
その一言は、泣きそうな顔で。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「別に俺ねぇちゃんが誰かと付き合うの、反対はしてないよ」
「嘘やろ」
「即答しないでよ、本当」
そう言って、澪は溜息を零す。
「いいよ、別に」
そんな彼に、弑は胡乱な視線を向ける。
それに軽く手を振って。
「世界で一番ねぇちゃんを幸せにしてくれるなら」
そして続いた無声音は、弑には届かなかった。
+++++++++++++++++++++++++++++++
自分の「好き」は独占欲に近い。
誰も触ることの出来ないように。
離れていかないように。縛り付けてしまえれば、きっと一番良いのだろう。
「でも、みっちゃん」
少し離れた場所で白が揺れる。この感情を知る数少ない、
「それで壊しちゃうのは、おっかないよねぇ」
……あぁ、だから、手は伸ばせないのだ。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「『恋とはどんなものかしら』」
歌詞を見ながら呟いた言葉は、澪にはらしくない響きだった。
「なんや、それ」
「オペラだよ」
でもしーさん、と澪は笑う。
「どんなんだろうね、しーさん」
「や、自分今恋人いるやろ」
「うん。でもよく分かんない」
好きは分かるけど。笑い声がそう呟いた。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「好きはね、分かるの」
大分酒が回って、軽くなった口が言う。
「ねぇちゃんも皆も好き、歌うのも好きだよ」
でも、と続くのが何回目か、数えるのはとうに止めた。
「ちゃんとした恋愛ってわかんない」
「……それ聞く相手間違ってるだろ」
「唯なら知ってると思ったんだもん」
相変わらずのそれが痛い。
+++++++++++++++++++++++++++++++
お互いの好みを、知る程度には長い付き合いで。
みっちゃんとはまた違った方面で、この馬鹿は恋愛下手だと思う。
「お前相変わらず黒髪フェチなのな」
「いいじゃん、好きなんだもん」
黒髪で、今にも折れそうな、大人しめの子。澪が選ぶのはいつもそんな子。
浮かんだ疑念が邪推であればと――いつも思う。
+++++++++++++++++++++++++++++++
好みの女性は。
その問いに対する答えは、ウチに加入してから変わった。
「昔は巨乳って言ってたのに」
「……蒸し返さないでくれませんか唯さん」
「なんで」
訊ねれば、深い溜息。
「前ン彼女が、勿体無いくらいええ女やったから」
女々しいやろ、としーさんは笑う。
「……そんなことないよ」
+++++++++++++++++++++++++++++++
「え、知らない。カウンター付いてないし」
ツアー先のホテル、何となく流れで行き着いた話題。
唯の返答に、真っ先に溜息が落ちた。
「じゃあしーさん、数えてるの」
今までの女性(ひと)。そう言われると非常に弱いが。
「……別れたくない、思ったんは一人」
それだけは、断言できる。
+++++++++++++++++++++++++++++++
めんどくさくない女が好き。
いっそ清々しいまでに言い切る唯には苦笑しか出てこない。
「あ、でも俺バンギャルちゃんは好きよ」
「それこそ一番めんどいん違うか」
「恋愛対象じゃないけどね。でも一生懸命可愛いくなろうと頑張るの、可愛いじゃん」
だから好き。そう言って唯は綺麗に笑った。
+++++++++++++++++++++++++++++++
ねぇちゃんは大体喫煙席にいる。
コーヒーと灰皿と、それからイヤホン。
机に広げた紙に書くのは詞か旋律か。
黒い頭が、何かに気付いたように上がる。
イヤホンを外して、トレイ片手にやってくるねぇちゃん。
「禁煙席行こ」
俺だけの特権に、頬が緩む。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「ねぇちゃん浴衣着ない?」
「着ない」
「なんで?」
「暑い。動き辛い。一人で着れない。ハイ却下」
「着付けならしーさんか唯が出来るよ?」
「……着ねぇつってんだろこの愚弟いい加減にしろ」
突き放せば、頬を膨らませる。お前幾つだ。
「あと蜜抱き込んだら暫く口聞かない」
「何それ酷い」
+++++++++++++++++++++++++++++++
「ちょ、みっちゃんそれ俺のサバラン!!」
「唯ちゃん、俺(わ)よか酒まいべさ」
振り返れば、丁度蜜が洋菓子を口に運ぶ所だった。
上がる唯の抗議、溜息で殺す。
「何、蜜君も酒弱いの」
騒ぎを聞きつけたのか、顔を覗かせたのは社長。
「……あれが弱かったら世界には下戸しかおらんぞ」
「え?」
+++++++++++++++++++++++++++++++
「スプリット・タン、完成まで時間かかるらしくて」
溜息混じりの相方の言葉に、背筋が冷えた。
「……まだ諦めてなかったん」
「体重落ちちゃうから悩んでます」
ライブ出来ないのは嫌です。心底名残惜しそうな声が言う。
けれどもその理由だと開ける日は遠い。そのことに、今度は安堵の息を吐く
+++++++++++++++++++++++++++++++
「ねぇちゃん、刺青入れたの知ってる」
訊ねる、というよりは詰問のそれに苦笑が零れる。
「まぁね」
「……俺聞いてない」
「そうやって拗ねるからだろ」
そう言えば、澪は溜息を吐いた。
「入れないの?」
「俺?」
「そ、揚羽蝶」
「……入れない」
だって、とむくれた声。
「――俺が入れても意味が違うもの」
+++++++++++++++++++++++++++++++
空は青い。でも、『青』を知らない人にはどう説明したらいいか。
不意に蜜が、そんなことを言い出した。
「……何それ訳わからん」
「分からないものを説明しきれるか、って話ですよ、しーさん」
にこりと、満面の笑顔。
「知らないのに口にする『青』、それは同じなんですかね」
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彼のことを純真無垢と称する人がいるけど、それは間違いだと思う。
細い背中がチューニングを直す、その間。
「んっとね、それじゃあ」
くるり、回ればスカートが広がる。
「――みっちゃん、最近何かあった?」
……純真無垢というなら、笑顔で、喋るの苦手な人間に、MCは振ってこないだろう
+++++++++++++++++++++++++++++++
黒い制服からは、微かに煙草の匂いがしていた。
教師に何度か指摘されても、無表情に「吸ってない」と答えていたのを覚えている。
「ねぇ山本さん、いつからそれ吸ってるの」
そうして、彼女の周りの人間は誰もそれを咎めなかったのも。
「13、だったかな」
よく覚えてないけど。昏い双眸が言う。
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「弑さん、女形やらないんですか」
「……あ、『弑』名義っつー?」
「はい」
綺麗なのに。それを、揶揄でもなく本心で呟いているのが性質が悪い。
私よりも綺麗なのに。きょとんとしたそれに、溜息を一つ。
「ソーセイさんがやったら、やるかもな」
「……それ卑怯です」
「弑名義ではやらんよ」
BPM200。そんな曲を持ってきたのは一番苦手な人。
今までにない速さの中で、その背中だけはいつも通りに伸びて。
シンバルの合間から俺を見た、切れ長の目が笑う。
『楽しいやろ』と、言われた気がした。
見透かされている気がした。
嗚呼、嗚呼――その通りだよ、畜生。
【ドメスティック・サウンド】
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恵比寿、赤坂、心斎橋、川崎。
行った事はあれども、演ったことはない箱の方が多い。
「あーあ」
「唯ちゃん?」
「……先は遠いね」
お台場、渋谷、新木場。そうしていつかは――九段下。
そう零せば、相方は首を傾げて。
「水道橋、じゃねぇんず?」
その言葉に、思わず笑ってしまった。
【箱匣キャパシティ】
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喉に悪そうなそれを試せば、すぐに声は出なくなった。
「これじゃ、この後歌えないね」
そう言った顔は心底悔しそうだったから。
「やらなくていいよ、澪」「え」「私、やるから」
「でも」
見上げてくる目は、不安げに揺れる。
「アンタは歌ってなさい」
――それ以外は、私がやるから。
【冒険デスボイス】
+++++++++++++++++++++++++++++++
見慣れない楽器の、弦は三本。
ピックといには大きすぎるそれを振り下ろせば、空気が震えた。
「蜜さん三味線弾けんの」
「弾ける、だけですけど」
「ピアノとギターもやろ」
万能やなぁ。弑がそう呟けば、蜜は困った様に笑った。
「できる、とやりたい、と、上手い、は違いますよ、しーさん」
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しーさんの曲は暴力的に、ギターの目立つ曲。
みっちゃんの曲はメロディアス。
客観視すれば、好みは如実に出ていると思う。
なら、俺の曲はどうなんだろう。改めて聞けば苦笑する。
「……まぁ、そうなるわな」
咲いて踊って。やっぱり好みは出てしまうようだ。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「弑さん」
少し高い所からの呆れたような声。
「人のこと言えないです」
「や、食っとるし」
「カップラーメン一日一個はご飯にカウントしません」
心底呆れた様子にでも、と反駁したのは、いつも言っているからか。
「公共料金払える分は残して」
「だからって生活費やしてアンプ買いません普通」
+++++++++++++++++++++++++++++++
歩幅どころか、スタートラインが違う。
だから追いつくどころか距離は離されて、気付いた彼が振り返って名前を呼ぶのだ。
それにまた、足りないものを思い知る。
指の長さ、踏んだ場数、そんな諸々。
「ソーセイ」
息が詰まりそうになりながら、笑い混じりのそれに。
「お待たせしました、弑さん」
+++++++++++++++++++++++++++++++
「しーさん、セッションって楽しい?」
「ん、まぁな」
「ふぅん」
半眼の問いに、弑は首を傾げる。
蜜さん。その声に振り返る、ドラマーはいつもの笑顔。
「自分等はやらんの」
「うん、やったことない」
「勿体無い」
その言葉に、蜜は喉で笑う。
「俺(わ)は今が一番楽しいはんで、いがね」
+++++++++++++++++++++++++++++++
天才ってなんだと思う?
その問いに、白い唄歌いは首を傾げた。
「五オクターブ」
返ってきたのは存外にしっかりした声。
「五オクターブはもう『天才』だよねぇ、社長」
苦みの強い形で、彼は笑いながらそう言った。
羨ましいよね、の一言が、彼から出たのが意外だった。
+++++++++++++++++++++++++++++++
俺より随分とマトモなみっちゃんはでも、俺より恋愛は長続きしない。
「ヤマさんのが大事でしょ、って言われてまった」
赤く腫らした頬で笑うのは何回目か。
「んなことねぇべ。したけどみっちゃん本命には弱いよな」
「……おっかないから」
その一言は、泣きそうな顔で。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「別に俺ねぇちゃんが誰かと付き合うの、反対はしてないよ」
「嘘やろ」
「即答しないでよ、本当」
そう言って、澪は溜息を零す。
「いいよ、別に」
そんな彼に、弑は胡乱な視線を向ける。
それに軽く手を振って。
「世界で一番ねぇちゃんを幸せにしてくれるなら」
そして続いた無声音は、弑には届かなかった。
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自分の「好き」は独占欲に近い。
誰も触ることの出来ないように。
離れていかないように。縛り付けてしまえれば、きっと一番良いのだろう。
「でも、みっちゃん」
少し離れた場所で白が揺れる。この感情を知る数少ない、
「それで壊しちゃうのは、おっかないよねぇ」
……あぁ、だから、手は伸ばせないのだ。
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「『恋とはどんなものかしら』」
歌詞を見ながら呟いた言葉は、澪にはらしくない響きだった。
「なんや、それ」
「オペラだよ」
でもしーさん、と澪は笑う。
「どんなんだろうね、しーさん」
「や、自分今恋人いるやろ」
「うん。でもよく分かんない」
好きは分かるけど。笑い声がそう呟いた。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「好きはね、分かるの」
大分酒が回って、軽くなった口が言う。
「ねぇちゃんも皆も好き、歌うのも好きだよ」
でも、と続くのが何回目か、数えるのはとうに止めた。
「ちゃんとした恋愛ってわかんない」
「……それ聞く相手間違ってるだろ」
「唯なら知ってると思ったんだもん」
相変わらずのそれが痛い。
+++++++++++++++++++++++++++++++
お互いの好みを、知る程度には長い付き合いで。
みっちゃんとはまた違った方面で、この馬鹿は恋愛下手だと思う。
「お前相変わらず黒髪フェチなのな」
「いいじゃん、好きなんだもん」
黒髪で、今にも折れそうな、大人しめの子。澪が選ぶのはいつもそんな子。
浮かんだ疑念が邪推であればと――いつも思う。
+++++++++++++++++++++++++++++++
好みの女性は。
その問いに対する答えは、ウチに加入してから変わった。
「昔は巨乳って言ってたのに」
「……蒸し返さないでくれませんか唯さん」
「なんで」
訊ねれば、深い溜息。
「前ン彼女が、勿体無いくらいええ女やったから」
女々しいやろ、としーさんは笑う。
「……そんなことないよ」
+++++++++++++++++++++++++++++++
「え、知らない。カウンター付いてないし」
ツアー先のホテル、何となく流れで行き着いた話題。
唯の返答に、真っ先に溜息が落ちた。
「じゃあしーさん、数えてるの」
今までの女性(ひと)。そう言われると非常に弱いが。
「……別れたくない、思ったんは一人」
それだけは、断言できる。
+++++++++++++++++++++++++++++++
めんどくさくない女が好き。
いっそ清々しいまでに言い切る唯には苦笑しか出てこない。
「あ、でも俺バンギャルちゃんは好きよ」
「それこそ一番めんどいん違うか」
「恋愛対象じゃないけどね。でも一生懸命可愛いくなろうと頑張るの、可愛いじゃん」
だから好き。そう言って唯は綺麗に笑った。
+++++++++++++++++++++++++++++++
ねぇちゃんは大体喫煙席にいる。
コーヒーと灰皿と、それからイヤホン。
机に広げた紙に書くのは詞か旋律か。
黒い頭が、何かに気付いたように上がる。
イヤホンを外して、トレイ片手にやってくるねぇちゃん。
「禁煙席行こ」
俺だけの特権に、頬が緩む。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「ねぇちゃん浴衣着ない?」
「着ない」
「なんで?」
「暑い。動き辛い。一人で着れない。ハイ却下」
「着付けならしーさんか唯が出来るよ?」
「……着ねぇつってんだろこの愚弟いい加減にしろ」
突き放せば、頬を膨らませる。お前幾つだ。
「あと蜜抱き込んだら暫く口聞かない」
「何それ酷い」
+++++++++++++++++++++++++++++++
「ちょ、みっちゃんそれ俺のサバラン!!」
「唯ちゃん、俺(わ)よか酒まいべさ」
振り返れば、丁度蜜が洋菓子を口に運ぶ所だった。
上がる唯の抗議、溜息で殺す。
「何、蜜君も酒弱いの」
騒ぎを聞きつけたのか、顔を覗かせたのは社長。
「……あれが弱かったら世界には下戸しかおらんぞ」
「え?」
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「スプリット・タン、完成まで時間かかるらしくて」
溜息混じりの相方の言葉に、背筋が冷えた。
「……まだ諦めてなかったん」
「体重落ちちゃうから悩んでます」
ライブ出来ないのは嫌です。心底名残惜しそうな声が言う。
けれどもその理由だと開ける日は遠い。そのことに、今度は安堵の息を吐く
+++++++++++++++++++++++++++++++
「ねぇちゃん、刺青入れたの知ってる」
訊ねる、というよりは詰問のそれに苦笑が零れる。
「まぁね」
「……俺聞いてない」
「そうやって拗ねるからだろ」
そう言えば、澪は溜息を吐いた。
「入れないの?」
「俺?」
「そ、揚羽蝶」
「……入れない」
だって、とむくれた声。
「――俺が入れても意味が違うもの」
+++++++++++++++++++++++++++++++
空は青い。でも、『青』を知らない人にはどう説明したらいいか。
不意に蜜が、そんなことを言い出した。
「……何それ訳わからん」
「分からないものを説明しきれるか、って話ですよ、しーさん」
にこりと、満面の笑顔。
「知らないのに口にする『青』、それは同じなんですかね」
+++++++++++++++++++++++++++++++
彼のことを純真無垢と称する人がいるけど、それは間違いだと思う。
細い背中がチューニングを直す、その間。
「んっとね、それじゃあ」
くるり、回ればスカートが広がる。
「――みっちゃん、最近何かあった?」
……純真無垢というなら、笑顔で、喋るの苦手な人間に、MCは振ってこないだろう
+++++++++++++++++++++++++++++++
黒い制服からは、微かに煙草の匂いがしていた。
教師に何度か指摘されても、無表情に「吸ってない」と答えていたのを覚えている。
「ねぇ山本さん、いつからそれ吸ってるの」
そうして、彼女の周りの人間は誰もそれを咎めなかったのも。
「13、だったかな」
よく覚えてないけど。昏い双眸が言う。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「弑さん、女形やらないんですか」
「……あ、『弑』名義っつー?」
「はい」
綺麗なのに。それを、揶揄でもなく本心で呟いているのが性質が悪い。
私よりも綺麗なのに。きょとんとしたそれに、溜息を一つ。
「ソーセイさんがやったら、やるかもな」
「……それ卑怯です」
「弑名義ではやらんよ」
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