メモ帳
創作バンド中心に、作品未満のネタ置き場。落書きだったり文だったり。
津島さん宅の末っ子。
「シロ、まだおがったべ」
「なも、まだ満よかちっちぇえし」
先日書いた小話に出てきた津島さん宅の末っ子・嗣郎君。
蜜の2つ下でCDショップ勤務。ヴィジュアル系のポップ書いているのは大概彼。
彼のプッシュでインディーズながら21gのCDが置かれています。
ブラコンかつギャ男。実兄に咲くのに何の抵抗も無い。
でも184cmもあるもんだから正直アレな光景である。
出会い頭に黄色い声出された下手は正直引いた(←
歌唄いとは非常に気が合います。
続きに三年くらい前の津島兄弟。
すぐ上の兄は大変頭が良く、幼い頃から末は博士か大臣かと言われ続けていました。
かく言う自分はそれ程頭が良くなく、昔はそんな兄が嫌いでした。
兄が向けてくる視線の中に、ちらちらと見え隠れする棘があるのですから。
けれどもそれが、自分の無知に対する物ではないと分かったのは、あろうことかそれが消えてからでした。
その時にはもう、兄は昔の様に笑わなくなっていました。
何もかも凍らせてしまった兄に、どうしていいのか分からずただ泣いたのを覚えています。
「満おかえりー、早速だけどそれ見ていい?」
「シロ……別にいいばってさ」
苦笑気味の声が、その名を口に乗せるだけで、自分は幸せな気持ちになれるのです。
大学進学を機に家を出た兄は、それでも折を見て帰ってきます。
昔よりも筋肉のついた腕が持ってくるCDと雑誌は、田舎ではあまり見ない色彩で、自分にはとても魅力的でありました。
頁を捲れば、化粧をした兄と友人達が目に飛び込んできます。中でも目を引くのは、妖艶に笑う兄の友人です。
「満、満、今回も唯さん可愛いっきゃの」
「シロはホント唯ちゃん好きだっきゃな」
「んー、俺の一番好きなベーシスト、唯さんだはんで」
すぐ上の兄が連れてきた彼を、一番上と二番目の兄が女性だと勘違いしたのはもう数年も前になります。
じっとりとした空気さえ今でも鮮明に思い出せるのは、兄が家に誰かを連れてくるのは久し振りだったからでしょう。
そんなことを考えながら、床に置かれたCDラジカセに手を伸ばします。こちらには流通しない兄のバンドの曲は、家族の誰もが聞きたがるのですが、それを一番に聞けるのは学生の自分の特権です。
開けたブックレットは、相も変わらず自分の好みでありました。綴られた言葉を追えば、背中から声がかかります。
「なんかめぐせっきゃ」
「なしてさー」
「めぐせもんだっきゃめぐせんだね」
「昔よか上手くなったべさ」
家で叩いていた時よりも、格段に上手くなったリズムは大変耳に心地いいものです。
そうしてそれに被さる低音に、リフが、メロディに、あぁ、と自分は嘆息するのです。
「これ唯さん作曲で、そーさん作詞?」
「ん」
「そっかー……やっぱ唯さんの曲楽しいなぁ。澪さんも好きだけど、やっぱ俺唯さんが」
「シロ」
言葉を遮るその名前は、先程の様に和らいではいませんでした。
変わった空気に、気付いていない振りをしながら振り返ります。
「お前(な)さだっきゃ、やらねぞ」
凍った笑顔で言う兄を、嗚呼、愚かだと思うのです。
「んー、別に欲しくはねぇな。好きだばって」
「……んだ?」
「ん……ってそーさんすげぇ! あの人指神経どうなってんの!?」
流れたソロにそう言えば、空気はすぐに元に戻ります。
嗚呼、嗚呼、本当に兄は愚かで愛しいのです。
未だに自分を子供だと思っている兄。
ようやく手にした兄の、兄だけの物を、欲しいと駄々を捏ねるほど、自分はもう子供ではないのです。
何故なら自分が欲しいのは――昔の様に笑う兄なのですから。
兄の傍に彼が居て、それが兄の幸せであるのなら、どうしてそれを奪えるのでしょう。
ふいに、誰にも理解されずにいたそれを、素敵と笑った兄の友人が脳裏に浮かびました。
高く低く歌を綴る彼は、今も彼の神を宗教を信仰しているのでしょう。
「あー……ライブ行きてぇ」
「仙台だば今度回るばって」
「んだ? せば行く」
「……平日だっばって、お前学校どうすんずや」
「サボる」
「シロ」
苦く笑っても、兄は決して咎めません。
そんな風に優しく笑う兄が、自分は大好きなのですから。
<玩具の王と錻力の樵>
だから兄の一番を奪うだなんて、願ってはいけないことなのです。
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「めぐせ」=「恥ずかしい」
太宰っぽくしようとしてあえなく撃沈。
そして顔は蜜なのに中身は澪という。
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